もう1つの理由は、お金だ。自動車は買うときにお金がかかるだけでなく、買ってからも、毎年、燃料代や、保険料や、修理代など、かなりの維持費がかかる。奨学金を返済している若者や、「ギグ」の仕事で糊口をしのいでいる若者にとって、そのような負担は余計だろう。
経済性を比較してみよう。例えば、年間の平均走行距離が2万キロほどだとする。そうすると、燃料代などもろもろの費用を合わせた年間の維持費は、だいたい7000ドルくらいになる。7000ドルあれば、ライドヘイリングのサービスを(平均的な利用距離で)約600回、つまり1週間に約12回、毎日約2回、利用できる。もちろん、ウーバーやリフトの車にいくら乗っても、中古車として売ることのできる自家用車と違って、残余価値は生じないし、所有の喜びもない。
電気自動車、配車サービス、自動運転車
運転免許の取得と自動車の購入は避けられているのではなく、先に延ばされているだけという可能性も、もちろんある。今の30代以下が年を取って、経済的に余裕ができれば、自動車を買うようになるかもしれない。結婚するのも遅く、子どもを授かるのも遅くなってはいても、やがては結婚して、子どもを授かり、郊外へ引っ越し、SUVを購入して、子どもの送り迎えをしたり、車で出かけたりするようになる。加えて、車を「所有」したいと思う人も多いかもしれない。また、それとは別に1つ注意したいのは、ライドヘイリングによって総走行距離が減るとは限らないことだ。むしろ逆に、総走行距離は増える可能性が高い。ライドヘイリングのサービスがどこでも簡単に使えるようになれば、そのぶん車の利用は促される。バスや地下鉄に乗る人は減って、自分で運転しなくても、個々の自動車で移動する人が増えるかもしれない。
自動車は石油同様、世界的な産業だ。アメリカや、欧州や、日本の情勢だけでは話はすまない。中国では、徹底的な渋滞対策が講じられていながら、今なお、人々が車を所有したいという強い願望を抱いている。そして、忘れてならない大きな国がもう1つある。インドだ。
インドには現在、4800万台の自動車しかない。これは人口がほぼ同じである中国の2億4000万台に遠く及ばない。しかしインドは巨大な新興市場であり、なおかつ、人口に占める若年層の比率が中国より格段に高い。道路網の整備も中国よりはるかに遅れている。今後、経済成長に伴って、所得が増え、インフラの整備が進めば、とてつもない数のインドの若年人口が、世界の自動車産業や石油産業に大きな影響を及ぼすことになるだろう。
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