ひと言で言えば、自動車──と燃料供給者──の世界が、新しい競争の舞台になったということだ。もはや単に消費者に自家用車を販売するだけの競争ではなくなっている。単なる自動車メーカー同士の競争でもなければ、ガソリンブランド同士の競争でもない。
競争は多元化している。ガソリン車と電気自動車の競争であり、自動車の個人所有と移動サービスの競争であり、人間が運転する車と無人の自動運転車の競争でもある。その結果が、技術とビジネスモデルの闘いであり、市場シェアをめぐる争いだ。変化は徐々にだが、確実に起こっている。攻勢をかけているのは電気だ。石油はもはや無敵の王者ではない。ただし、もうしばらく、運輸産業は広く石油の影響下に置かれるだろう。
新しい移動は大きな混乱も招くだろう。「移動の製品化」から「移動のサービス化」への移行が進めば、個人による車の購入は著しく減る。一方で増えるのは、業者による車の購入だ。その車の稼働率は5%ではなく、70%や80%だから、業者による車の購入台数の増加によって、個人による車の購入台数の減少は補えない。世界中に張りめぐらされている従来型の自動車のサプライチェーンは、商売の競争よりも、ロボット工学や3Dプリンタといったイノベーションやテクノロジーによって大打撃を被りうる。
タクシードライバーの大量失業
「移動のサービス化」は利用者には便利である反面、自動運転車が導入されれば、労働力に甚大な影響を及ぼすだろう。タクシードライバーや、ウーバーやリフトやディディのドライバー、ガソリンスタンドの店員、自動車ディーラーの販売員、自動車工場の労働者、乗客が減る公共交通機関の職員といった人々が大量に失業する。それらの人にはどういう新しい職が用意されるのか。失業の責任は誰が負うのか。年金はどうなるのか。
今後、どういうことが起こりうるかは、営業許可証(メダリオン)を購入して商売をしているタクシードライバーたちの身にすでに起こっていることに、はっきり示されている。従来、タクシードライバーは廃業の際、メダリオンを高い値段で売って、退職後の生活資金を得ていた。ところが近年、メダリオンの価格が購入時よりもはるかに下がってしまい、退職後に必要なお金が得られなくなっている。
世界の自動車産業そのものの未来も、まったく不透明だ。自動車産業界のパラダイムでは、新興市場の成長と成熟市場の買い替え需要が前提にされている。自動車の新しいモデルは、普通、5年から7年の周期で投入される。しかしそれを上回る速度で未来図は変化している。
現在の自動車産業のビジネスモデルは誰よりもヘンリー・フォードによって築かれたものだ。フォードが言ったように、当時、顧客に何が欲しいかを尋ねていたら、顧客は速い馬が欲しいと答えていただろう。
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