「アメリカでも若者の車離れ」自動車会社の岐路 自動車メーカー同士の競争を超えた新たな闘い

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ヘンリー・フォードのビジネスモデルは100年以上、生き延びてきた。「かなりのロングランでしたよね」と、ひ孫のビル・フォードは言う。しかし、このビジネスモデルに関わることが「すべて変化」している。「所有の形態も変化していますし、車両の推進システムも変化しています。我々のビジネスはあらゆる点で変化の波を被っています」。

電気自動車の「需要」は政策に左右される

「いくつかのことは、とてもはっきりしています」と、フォードは付け加える。「1つは、時代の流れが電動化に向かっていること。もう1つは、自動運転が実現しようとしていること。ただし、いつになるかは議論が分かれるところです。ですが、この新しい世界の周りでどういう関連事業が発達するかは、はっきりしていません。いまだにすべて可能性の段階、実験の段階です」。

「わたしはさらに100年、フォードを存続させたいと思っています。ですが、我々のビジネスは小回りが利くものではありません。確実なことが多いほど、都合がいいビジネスです。残念ながら、我々は今、確実なことが多いとは言えない世界に生きているようです」

自動車メーカーは何を、どれくらいのペースで作ればいいか、何に資金を投じればいいか、模索を続けることになるだろう。政府の政策にも対処しなくてはいけない。政府の規制でエンジン車の値段が上昇する一方、電気自動車に補助金が出されたり、電気自動車の生産割り当てが定められたりしている。

しかし電気自動車の販売台数が増えるにつれ、補助金の総額は膨らむ。政府はいずれ補助金を削らざるをえなくなるかもしれない。コロナ禍で政府負担が急増している状況ではなおさらだ。そのとき、電気自動車に対する消費者の購買意欲にどういう影響が出るかを、自動車メーカーは考えておかなくてはならない。しかし少なくとも今のところ、電気自動車の「需要」は消費者によってではなく、おもに政府によって、気候問題や都市の大気汚染や渋滞の問題をめぐる政府の政策によって支えられている。

今後、自動車の製造と、フリートマネジメントやライドヘイリングやソフトウェアプラットフォームが、何らかの仕方で組み合わさるようになるだろう。その形態はさまざまなものになりうる。しかしその中からきっと、これまでになかったタイプの企業、すなわちオートテックによって変貌を遂げた世界を体現する大規模なモビリティ企業が、登場するはずだ。

ダニエル・ヤーギン IHSマークイット副会長

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Daniel Yergin

「米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家」(『ニューヨーク・タイムズ』紙)、「エネルギーとその影響に関する研究の第一人者」(『フォーチュン』誌)と評される。ピューリッツァー賞受賞者。ベストセラー著者。著書に『石油の世紀――支配者たちの興亡』、『探求――エネルギーの世紀』、『砕かれた平和――冷戦の起源(Shattered Peace: The Origins of the Cold War)』、共著に『市場対国家――世界を作り変える歴史的攻防』がある。世界的な情報調査会社、IHSマークイットの副会長を務める。

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