地方で異例!広島市に「流しのタクシー」多い秘密 乗車回数の多さは全国有数、背景に独特な事情

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取材を通して「広島ならではの地域性はある」と、はっきり答えたドライバーが多かったのも印象深かった。前出の山村業務部長によれば、市内では近距離の移動手段として根付く反面で、タクシー不足ともいえる現象が起きることもあるという。

「県内の経営者の方と話しても、昨年の12月も需要に対して圧倒的に供給量が足りてないという声が多かったんです。その理由を聞くと車両数に対して絶対的にドライバーが足りない、という声も漏れてきます」

この言葉の象徴ともいえ、広島のタクシー業界を驚かせたニュースがある。県内の大手の広島タクシーが昨年10月に自主廃業を発表したことだ。

同社は、70年以上の歴史を持ち、保有台数や人員も県内でも最上位に数えられていた。コロナ禍の業績悪化も関係するが、廃業の最大の理由は、深刻な人材不足という声もあった。県内のあるタクシー会社幹部が明かす。

「広タクさんに限らず、県内のタクシー会社は慢性的な人手不足で、保有に対する稼働台数が低い状態が続いています。市場はあるのに運転手のなり手がいないから、乗客の取りこぼしがかなり多いのが現状です。全国平均である約60歳と比べても、広島では約64歳と高齢化も深刻で、数年後にはごそっと人がいなくなる。そうなってくると新しい人材を確保できなければ、さらに廃業を選択する会社が出てくるでしょう」

ドライバーが足りずに車両を稼働できない

観光や日常利用などを含めた需要に対して、ドライバーが足りていないのは全国的な共通事項ではあるが、広島の場合はそれがより顕著といえる。

筆者が入手した2021年11月の広島交通圏内の統計資料によれば、保有しているタクシー車両が実際にどれだけ稼働しているかを示す実働率(実働車数/保有車両数×100)が80%を超える社は1社のみで、40~60%がボリュームゾーンだ。つまり、ドライバーが足りずに、車両を稼働できない状況が見て取れる。実際、コロナの影響もあり、2020年3月末時点で7457人いた県内のドライバーが、2021年の11月末には12.7%も減少している(数字は東京交通新聞調べ)。

さらに、タクシーが走行した距離のうち客を乗せて走行した割合を示す実車率(実車キロ/走行キロ×100)は軒並み40%台前半で、かなり悲惨な数字ともいえる。なお参考までに、都内の大手社は実働率で80%を超え、実車率も50%を超えてくる。

前出のタクシー会社幹部は「ドライバー減少に歯止めがかからず、新しい層を採るために高校、大学を回るなど営業努力はしているが、大都市圏よりも母数が少ないこともあり苦戦しています」と切実な心境を吐露する。

流しが多い地域ということは、よりいっそう人の流れが制限される際のダメージは大きくなる。昨年末時点でコロナ前の8割程度まで戻ってきていたという売り上げも、県内の感染者増による影響により、現在は先行きが見えない状況に突入しているのだ。

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