広島県タクシー協会の山村哲也業務部長は、現在の市内のタクシー業界を取り巻く環境をこう説明する。
「広島はもともと河川が多く、それに伴い地下鉄を伸ばすことが難しかった。その関係でバスや路面電車の文化が色濃く、「3Bの街」(バス、ブリッジ、ブランチ(支店経済))とも言われ、コンパクトシティならではの交通インフラがある。それゆえに近距離でのタクシー需要も高く、流し営業が成り立つ街ともいわれます。無線営業がない会社も数社あり、中には流しのみという会社も複数あります」
県内でも大手に数えられる、つばめ交通の山内恭輔代表は、広島の地域性について具体的な数字をあげてこう説明する。
「広島交通圏の1日当たりの売り上げ平均が約3万円、ウチは少し多くて4万円程度ですが、そのうちの半分近くが流し営業であがります。平均客単価は1500円程度ですが、平均乗車回数は25回を超えてくる。
地方にいくほど無線率(配車率)が高くなることが通例ですが、広島は違う。面白いのはそれだけ流しが多いからか、全国的に浸透しているアプリ配車への依存率が低いんです。
配車のお電話もコロナ前は1日1500件程度いただいており、緊急事態宣言時などを除けば、今でも1100件は超えてくる。タクシーが人々の身近にあり、台数が足りずにその半分以上をお断りしていたくらいでしたから」
地元住民の利用を大事にしている
これまで業界を取材してきた筆者の肌感覚で言っても、これまでに何度か訪れてきた広島市内のタクシーはその流れ具合からも一見順調そうな印象を受けた。コロナ前に訪れた際には、ベテランドライバーが独特な表現を用いて街のことを伝えてくれた。
「広島は地方の大きな都市ではなくて、“広島”単体やけえ。外国人観光客は必ず原爆ドームを訪れるし、全国から毎年何百万人という修学旅行生たちが泊まっていくでしょ。でも京都のような観光地じゃないから住んでいる人々の利用も大事で、商店街や施設なども協力してそれぞれに恩恵があるようにしている。広島愛が強いから助け合いの精神があって、そのバランスも絶妙なんよ。
正直いつも夜はあんまりやけど、広島カープが勝った日は別。みんな街に出て夜通して飲み人が増え、別の顔になる。だから2016~2018年の3連覇したときなんかは、タクシードライバーにとって一番いい時代だったね」
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