自社開発で新しいものを生み出したいなら、月面探査車を本気でやるしかない。以前は自社で宇宙事業に踏み出すことは夢のまた夢だと感じていたが、小型の車輪型ロボットとも言える月面探査車を主要事業に持ってくるには十分な知見がたまっていた。
アンダーグラウンドで取り組んできた月面探査車を、表舞台に出すときがきた。2019年4月、主要特許を出願し、月面探査車「YAOKI」の原型は完成した。二輪方式を採用した超軽量・超小型の探査車でカメラを搭載。月面の映像を地球へ送信する。名前は荒れた大地で何度転んでも立ち上がるよう、そして何度でも挑戦する意志を込め「七転び八起き」から取った。
NASAへ直接「見てほしい」と送った
ただYAOKIが完成しただけでは、話はここで終わっていたかもしれない。しかし、夢の始まりはここからだった。
人生を変えたのはYouTubeだ。中島さんはYAOKIを持って伊豆大島へ渡り、砂地を走る様子などを撮影。スモークをたいて演出し、片手でYAOKIの操縦、もう片方の手で撮影するなどし、一人で動画を作り上げた。
その動画をYou TubeにアップしNASA、スペースX社など主要な月面開発事業社へ直接「見てほしい」とメッセージを送った。特許の出願で技術がまねされるリスクを抑えつつ、なるべくたくさんの人に見てもらって少しでも月面探査実現の可能性を上げたいと考えたのだった。
すると驚くことにNASAが本当に動画を見てくれた。そしてNASAが進めるアルテミス計画において、月輸送の契約実施事業社として選定されたアストロボティック・テクノロジー社から、YAOKIを月面着陸船「ペレグリン」 に搭載したい、と連絡があった。月への打ち上げ費用は1kgあたり1億円と言われており、15cm×15cm×10cmの超小型、重量は500g以下というYAOKIに白羽の矢が立ったのだ。
「アストロ社が着陸船に乗せていくものを探していた時期と、私がYAOKIの動画を公開した時期がたまたま重なった」と振り返るが、情報をオープンにし、直接、各所にコンタクトを取る、というアクションを起こしたからこそ引き寄せられた幸運だっただろう。
しかし、アストロ社から送られてきた契約書の内容は「とても重く」、一人では手に負えなかった。そこで宇宙コミュニティーで知り合った弁護士など数人に秘密保持契約を結んでお願いし、数カ月にわたって一緒に契約書を読み砕いてサイン。
今後のためにもプロジェクト体制を整えなければならない、と営業や資金調達、広報など各分野のスペシャリストに会社へジョインしてもらった。現在は社員8人で会社を運営する。
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