倉本聰さん語る「北の国から」田中邦衛さんの素顔 40周年に作りたかった「さらば黒板五郎」の中身

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「会って『青大将は全部やめてくれ』と言いました。邦さんの芝居ってオーバーでしょ、割と。だから、ああいう役はもう捨ててほしいんだ、と、もう昔の田中邦衛じゃなくて。こういうリアルに寒い土地で、もっと情けないんだ、と。そういう役にしてくれって僕は頼んだんですね。そしたら『俺から青大将取ったら何もねえじゃねえか』って言われた。しょうがない、そういう役なんだからって。

最初はちょっと不満げでしたよね。不満げというか、不安だったんでしょうね。その頃、遊びに行ったときに『男は真面目にやればやるほど、どこかで矛盾が生じてくるものです』っていう色紙を書いて渡したんです。俺に合うってほれちゃって、邦さんの家に行ったときに、床の間に飾ってありました」

素顔の邦衛さんは個性的だった

「北の国から」で邦衛さんは、新境地を開拓した。

「すごく乗ってました。青大将を見事に捨てたし。役者としてのやり方が変わった。周りに登場したいい役者が、いっぱいいましたから。(妻役の)いしだあゆみの影響はすごく受けました。大竹しのぶも出たし。何よりも、大滝(秀治)さんですね。そういう本格派の俳優と接することで、随分変わりましたね。ものすごく成長したと思います。いわゆる三枚目っていうか、もう少し軽い役者だったのが、重い重量感のある役者になりました。

人間ってのはみんな、真剣にやってて、アップで見るとものすごく悲劇だと。それをロングで引いてみると、すごい喜劇になっちゃうんだ。そういう意味で邦さんの役っていうのを、本人はものすごく大真面目なんだけど、ロングで見るとものすごくおかしい。そういう喜劇を邦さんでつくりたかったんです。だから、邦さんにオーバーな芝居しないでくれって。あなたは真面目にしててくれればいいんだっていうことですよね。それは、傍(はた)から見て、ロングから見てるとおかしくなるから」

必死に生きているのにコミカルで悲しい。素顔の邦衛さんは個性的だった。

「シャイな方ですよ。独特の照れがあるんだけど、自分の中に、非常にへんてこな美学がある。1つの例で言うと(裾の細い)マンボズボン。なんかの授賞式でね、タキシードを着て行かなくちゃいけないことがあったんです。そうしたら、そういうタキシードを作って着てきましたからね。下がマンボズボンで、靴下との間がちょっと空いてんですよ。もう笑っちゃったけどね」

おかしいまでの美学を貫く邦衛さんに、倉本さんは信頼を寄せた。そして「北の国から」の主人公・黒板五郎を21年にわたり託した。

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