日本人が長く見過ごしてきた経済成長の「犠牲者」 資本主義を支えたのはケアワーカーたちだ
40年前と言えば、オイルショック後で女性の社会進出が進み始めた頃である。イギリスをはじめヨーロッパでは、政治への女性の進出も進んだ。女性の社会的地位が向上するとともに、家庭内での家事・育児のシェアも進んだ。
一方、日本ではオイルショック後、形を変えながらも女性の労働力化はあくまで非正規化を中心として進み、政治分野への進出はほとんどできていない。男性との家事・育児のシェアも遅々として進まない。NHK国民生活時間調査によると1980年、女性の平日の家事時間は4時間28分、男性は26分だった。男性の家事時間は40年間で増減をくり返し、伸びはせいぜい5年で数分ずつである。
男性がケアを引き受ける未来は来るか
希望の兆しはコロナ禍で見えた。コロナ禍で女性の負担は急増したが、男性も一部とはいえ前よりケアと家事を引き受けたからである。男性の家事時間は、2020年には2015年より平日で15分と大きく伸びている。いつか、男性が女性と同じようにケアを引き受ける未来は描けるのだろうか?
マルサル氏は、「男性と女性が同じように家事や育児に責任を持つことは、可能だと思います。本を書いた9年前、私には家族がいなかったのですが、今では結婚して3人の子どもがいます。ですから、この種の仕事がいかに貴重であるか、そしていかに大変なのかを一層実感しています。私の夫は専業主夫なので、家事や子どもの世話の重要な役割のほとんどを担っています」と述べる。
問題は、フルタイムで働く女性には家事・育児の負担が大きくかかりがちなのに、フルタイムで働く男性の家事・育児の負担はとても小さいことだ。NHK国民生活時間調査で2020年の男性全体の平日の家事時間は1時間9分と女性の約4分の1だが、仕事を持つ場合は6~8時間と比較的仕事時間が短い男性ですら、38分と大きく低下する。家事時間を引き上げているのは、主夫やリタイヤ男性なのではないだろうか。
家庭内での負担を減らすケアワークについては、働き手不足を招く賃金水準の低さが問題になっている。マルサル氏は「これは政治的な選択です。賃金が低すぎると、経済全体にとって重要な仕事をする労働者が不足する。このことを経済全体の問題と認識すれば、何をすべきかは明らかで、あとは、それを実行する政治的意志があるかどうかです」と述べる。
そして、家事やケアを採り入れた経済システムの構築は可能であるだけでなく、必要だとマルサル氏は言う。
「どんな社会でも、人を大切にするシステムを何らかの形で作らなければ、経済も何もかもうまくいきません。現在は、女性がほとんどの家事や介護を無料もしくは低賃金で行うことが期待されています。しかし、出生率の低下や女性が仕事から離れざるをえなくなっている実態からわかるにように、このシステムは明らかに機能しなくなっています。私たちは、新たな解決策を協議していく必要があります。
介護を誰かの負担にするのではなく、社会に必要な構成要素にするためには、きちんと給料を払って大切にすること。そして、この種の仕事の価値を、経済統計に反映させることです」
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