就活「後ろ倒し」では、学生は勉強しない 「システム」を理解しなければ、就活は語れない

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今回の後ろ倒しの措置により、採用選考の期間はたったの2カ月間と、非常に短くなってしまいます。そのような短期間では、十分な採用候補者を集めることが困難な企業が多数出てくるため、多くの企業では水面下で学生との接触を始めることになると考えられます。

あくまでも水面下の動きなので、企業は学生に大きく門戸を開くわけにはいきません。たとえば、リクルーターは、建前上、OBが自分の母校に行って在校生と接触するのが基本なので、企業としては自社の社員に卒業生がいる大学の学生にしかコンタクトがとれません(水面下なのに建前にこだわるのは変な話ですが、何かあったときのための言い訳の余地を残しておきたいと考える企業が多いようです)。

学生サイドから見ると、卒業生のいない会社からはリクルーターが来てくれないことになってしまいます。結果的に、卒業校による雇い分けのような状況が生じてしまうのです。

このように、人的なつながりのある企業から就職先を選ぶということが常態化してしまうと、個々の学生の選択肢はおのずと絞り込まれてしまうことになるので、「適職へのマッチ度」は、現状よりも後退してしまうことが懸念されるのです。

留学の促進は、メリットを受けられる人が少なすぎる

政府の説明では、今回の就活後ろ倒しの目的のひとつに、「留学等の推進」も含まれています。確かに、政府が説明するように、就活が後ろ倒しされれば、留学生にとってのメリットは大きくなります。

海外の大学は、日本とは学年のスタート時期と卒業時期が異なっています。日本では卒業式は3月の大学がほとんどですが、海外では5月以降となっているケースが多いのです。たとえば現行のように4月に企業の採用選考が始まってしまうと、留学生が帰国したときには、すでに大手企業では採用活動は終了してしまっています

ですので、たとえば大学の3年次から1年間海外留学に行った場合、帰国時には次年度の就職活動に乗り遅れてしまうという現実があるのは確かです。実際、そのことが足かせとなっているのか、ここ数年、日本から海外に留学する学生の数は減少する傾向にあります。

グローバル化が進展する現在、企業側からもグローバル人材の不足を訴える声が上がっているのは事実なので、就活後ろ倒しによって帰国後の就職活動への不安がなくなり、海外へ留学する学生が飛躍的に増えれば、それはそれで有意義です。

しかし、そもそも日本からの留学生の人数は8万3000人が過去最高で、直近では5万8000人程度です。仮に今回の措置が奏功し、留学生が過去最高の水準まで戻ったとしても、2万5000人増えるだけなのです。

一方、毎年大学を卒業し、就職活動を行う学生は、約60万人います。先ほど紹介した5万8000人の留学生というのは、高校から大学院まですべての学年の学生が含まれているので、1学年に直すと、どんなに多く見積もっても1万人には達しないと思われます。

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