つまり、全体の2%に満たない留学生のために、残りの大部分の人が大きな影響を受ける構造になっているのが、今回の就活後ろ倒しなのです。
就活は、とても複雑な「システム」だ
以上、就活後ろ倒しを主導した政府の3つの目的を見てきましたが、いずれも大した効果が見込めないか、いい影響を受ける人が少なすぎるというのが私の実感です。だから私は、全体としてマイナスの影響を受ける人が圧倒的に多い今回の「後ろ倒し」は、政策として失敗だったのではと考えています。
さて、このように書くと、私が政府を悪者にしようとしているように思われるかもしれませんが、それは私の本意ではありません。
就活は、時期を少し変更しただけで各プレーヤーの行動が変わり、損をする人と得をする人が出てくる、とても複雑な「システム」です。このような複雑なシステムでは、しばしば「誰も悪くないのに、全体として悪い結果に陥る」ということが起きます。
今回の就活後ろ倒しの悪影響は、企業が水面下で、上位校の学生を対象とした採用活動を進めることで引き起こされます。しかしこれは、企業が悪いわけではなく、あくまでも「後ろ倒し」という変化に対処するための苦渋の選択であることは、第3回で説明したとおりです。
では、「後ろ倒し」を決めた政府が悪いのでしょうか? 政府はあくまでも、「日本の大学生は勉強しない」という現実に対処するため、後ろ倒しを決めたにすぎません。「水面下の採用活動」という企業の反応を予測できなかったのは問題かもしれませんが、決して悪意があったわけではありません。
では、そもそも大学生が勉強しないことに問題があるのでしょうか? もちろん、大学生の本分は学業ですので、学業に集中するべきという意見もあるでしょう。しかし、先ほど紹介した辻太一朗さんの記事で述べられていますので、詳しくは割愛しますが、学生が勉強しない原因もまた、就活という「システム」自体にあると考えられるのです。
このように、プレーヤーの利害が複雑に絡み合い、互いに影響を与える「就活」というシステムは、誰かを悪者にする発想ではうまくとらえられません。正直、私自身、ベストな解決策を出せているわけではありませんが、「就活業界」の一員として、少しでもよい「システム」を模索していきたいと思っています。
この連載が、就活生・採用担当者の直接のお役に立てるとともに、就活という「システム」をよくするための議論に少しでも資することを願って、筆を置きたいと思います。これまでお読みいただき、ありがとうございました。
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