下絵とは思えない完成度の高さだが、「下絵は何段階か描くもので、これは最終段階。次に本画(ほんえ)を描いたと考えられます。下絵は筆が走るから、生き生きとした描写になるのです。室町時代を代表する水墨画が『天橋立図』とすれば、桃山時代を代表するのは長谷川等伯の『松林図屏風』で、どちらも下絵。下絵がその時代の代表作というのは、ちょっと複雑な気持ちになりますね」
恐ろしいほどに細かい描写
次は京都の夏の風物詩、祇園祭を描いた『祇園祭礼図屏風』。金箔をふんだんに使ったきらびやかな屏風(びょうぶ)には、祭のハイライトである山鉾の巡行を中心に、にぎわう町の様子と4841人もの人物が描き込まれている。祇園祭を題材にした絵は数多くあるが、その中でも指折りの作品だと福士雄也研究員は言う。
「恐ろしいほどに描写が細かい。これだけ多くの人を描きながら、着ているものも表情も一人ひとり違います。すべての山鉾が見えるように描かれ、当時の祭が正確に記録されているのも見どころです」
画面の上方を流れるのが鴨川、左側の大きな通りが四条通だ。高瀬川も見える。鴨川にかかる四条の橋は、幕末まで簡素な板の橋だったそうだ。橋の向こうに芝居小屋があり、その奥の八坂神社には神輿(みこし)が待機している。
「山鉾は寺町通を南に、松原通を西に巡行します。そのルートを絵の中に再現するために、松原通をギュッと手前に曲げて、寺町通と並行に描いています」
作者は京都の絵師、海北友雪という説もあるが、ひとりではとても描き切れないので、複数の人がかかわったと考えられている。発注者は京都所司代の板倉重宗とされる。目を凝らせば凝らすほど、いろいろなものが見えてきて、時間を忘れる作品だ。
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