まず価値向上に投資した。全米7100店舗を一斉に半日閉店し、バリスタを再研修した。全店舗を半日閉店すると売り上げが確実に落ちるのは覚悟のうえだ。
そして新生スターバックスを象徴する新しいブレンドコーヒーを開発した。さらに店舗でコーヒー豆をひく方法に戻した。最高級コーヒーを入れるコーヒーマシン会社も買収した。
一方で、合理化も慎重に進めた。不採算店舗はやむなく閉鎖。古いITインフラや配送システムは抜本的に見直した。そして社員一人ひとりが、「スタバらしさとは何か? 自分は何をすべきか?」を考え続ける仕組みも作った。
これら一連の施策の結果、スタバは再生し、全世界で今も成長を続けているのだ。
日本の電機メーカーが忘れた「自社らしさ」
徹底的な経営合理化によって、無駄のない強靱なスポーツマンのような肉体が手に入ると思っている企業は実に多い。しかし実際には、スタバの例からもわかるように、過度な合理化をするとやせ衰えた骨と皮ばかりの虚弱体質になってしまう。無駄と一緒に、企業の強みまでも失われるからだ。皮肉なことに、業績不振企業が焦って経営合理化を行うことで、さらなる業績悪化を招いてしまうことが往々にしてある。
たとえば日本の電機メーカーが人員削減したおかげで、貴重な技術がその多くの人材とともに、日本国内から韓国企業や台湾企業に流出してしまった。日本の電機メーカーは経営合理化することで弱くなり、ライバルの韓国企業や台湾企業はその分、強くなったとも言われる。
合理化の過程で「自社らしさ」を見失い、低迷する企業は多い。不振時にこそ、顧客に対して価値を生み出す「自社の強み」、言い換えれば「自社らしさ」は何かを徹底的に考え、強みを強化し、生かすことが必要なのだ。
「自社らしさ」とは、言い換えると「コアコンピテンシー」だ。これは、自分たちではなかなか気がつかないものだ。社内から見ると、日常的なもので当たり前に見えてしまい、過小評価してしまうからだ。しかし世界全体で見ると、多くの日本企業はとても強いコアコンピテンシーを持っている。「自社らしさ」「コアコンピテンシー」が何なのかを突き詰めて考え、誰もがわかるように言語化し、社内外で共有することで、より自社の強みを生かすことができるようになる。
それは、企業でも個人でも、同じことだ。「自社らしさ」「自分らしさ」を考え抜くことが、苦しいときにこそ重要なのだ。
(撮影:梅谷秀司)
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