その頃のスタバの店内からは、コーヒーの重厚で豊かな香りが消えていた。迅速にコーヒーを提供するために、店舗でコーヒー豆をひかずに、別の場所にあるセンターでひくように合理化したためだった。
さらに、ビジネスパーソン向けにチーズ入りサンドウィッチを温めて出すようになり、店内にわずかに残っていたコーヒーの香りも台無しになってしまった。
またコーヒーの味も落ちてしまっていた。店舗を急拡大したため研修が不十分なままバリスタが店に立ち、コーヒーを入れるようになったためだ。2007年、米国の消費者レポートでは、スタバのコーヒーは、マクドナルドのコーヒーよりも低評価になっていた。
店のデザインも画一化してしまい、店に入ってもワクワク感がなくなってしまった。開店ラッシュで店舗デザインを簡略化せざるをえなかったためだ。加えて、ぬいぐるみやCDなど、エンターテインメント系の商品を店舗で取り扱うようになった。
これらに共通する要因がある。効率化と売り上げ拡大の徹底的な追求だ。センターで豆をひき、店舗デザインを簡素するのは、効率化のためだ。また、チーズ入りサンドウィッチを温めて出したり、ぬいぐるみなど本業に関係ない商品を展開したり、技術の足りないバリスタを店に出したりしたのは、売り上げ拡大を追求したためだ。
当時のスタバの不振は、無駄が生み出したのではない。むしろ逆で、その真の原因は、「スタバらしさの喪失」だった。皮肉なことに、濃密な「スタバ体験」よりも、目先の売り上げと利益を優先したために、スタバは徐々に自らの魅力をすり減らしたのだ。
魅力が薄れても、顧客は一気には離れない。しかし、顧客は徐々に離れていき、ボディブローのように蓄積され、2008年についに顕在化したのだ。
2007年ごろにあなたが「最近のスタバには飽きたなぁ」と感じ始め、店から足が遠のいていたように、全世界の顧客がスタバから徐々に離れていき、スタバは苦境に陥っていたのである。
問い続けた「スタバらしさとは、何か?」
幸いなことに、CEOに復帰した創業者のハワード・シュルツは、自分が創業した「スタバらしさ」の重要性を理解していた。そして「原点回帰すべし」と考えた。家庭・職場の間にある「第3の場所」としての地位を取り戻し、革新的な文化に戻ろうと考えたのだ。
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