本作でウィルが目にする殺人現場の数々は、かなりグロテスクだ。犯人と同化し、凄惨な現場で事件をウィルの視点から追体験していく過程は、犯罪プロファイラーとして優秀であるがゆえに、彼の心が次第にむしばまれていく状態が臨場感を持って伝わってくる。それだけでもサイコサスペンスとしては優秀だが、ハンニバルの存在が本作でも重要な位置を占めている。
食材を想像して、ぞっ……
まず、各エピソードのタイトルに注目してほしい。
第1話「Aperitif(アペリティフ)」に始まり、第2話 「Amuse-Bouche(アミューズ・ブーシュ)」、第3話「Potage(ポタージュ)」と続き、第13話はフランス語で“おいしい”を意味する「Savoureux(ザヴルー)」で締めくくられる。このタイトルに合わせて、毎回、食通であり一流の料理人でもあるハンニバルが、腕によりをかけて調理をするシーンが出てくるのだが、視聴者だけは彼が「人食いハンニバル」である本性を知っているため、レバー(肝臓)や舌(タン)といった彼が扱う食材が何であるかを考えると、ぞっとしてしまう。
だが、そんなことは微塵も思わない客たち(あるときはジャックであり、ウィルでもある)は、レクターの料理の解説をうっとりと聞きながら、見た目にも美しい芸術的な料理の数々に舌鼓を打つ。時には、クラシックの壮麗な音楽をバックに、無惨にも臓器を切り取られた連続殺人事件の被害者たちの姿を交互に映し出しながらの晩餐会は、なんとも形容しがたい背徳的な魅力が視聴者を引き付けてやまない。
ハンニバルを演じているのは、デンマーク出身で“北欧の至宝”と称されるなどの人気を誇っているマッツ・ミケルセン(映画『007 カジノ・ロワイヤル』『偽りなき者』)。『羊たちの沈黙』以降、ホプキンスが体現したハンニバル像を超えるのは至難の業だと思われてきたが、ミケルセン演じる推定40代のハンニバルは、気品があり優雅で、それでいて完璧主義とこだわりの美意識が、どこか異質で不気味さを感じさせて秀逸だ。とりわけ、手際よく食材を調理していくシークエンスには、うっとりさせられる。
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