稀代の悪役「ハンニバル」がドラマで復活! これぞ元祖・犯罪プロファイリングの真骨頂

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ハンニバルとウィル

ハンニバルとウィルは対の存在である。イギリス人俳優ヒュー・ダンシーが演じるウィルの、優秀だが繊細で情緒不安定、そしてどこか狂気を秘めたキャラクターと、静かな自信に満ちあふれ、世のサイコパスの心理を自在に操りながら、自身も独自の価値観に従って殺人を重ねているハンニバル。2人は相関関係にあり、どちらが欠けても作品の魅力は半減する。

ウィルは気づいていないが、2人は追う者と追われる者、対極に位置する存在でありながら、同時に強く共鳴し引かれ合っている。ウィルは未解決の事件を解くために犯人(=ハンニバル)をプロファイリングし、知らず知らずのうちにハンニバルの心の闇に近づき、ハンニバルはウィルをカウンセラーとして分析しながら、十分な好敵手として好意、あるいは愛情さえ抱いているようにも見える。

先述の『FBI心理分析官』の冒頭では、ニーチェのこんな言葉が引用されている。

「怪物と闘う者は、その過程で自分自身も怪物になることがないよう、気をつけねばならない。深淵をのぞきこむとき、その深淵もこちらを見つめているのだ」

『HANNIBAL/ハンニバル』の醍醐味は、まさにこの言葉が意味するところにあるだろう。つまり、ウィルとハンニバルは対極にありながら、その間にある境界線は非常にあいまいであり、2人の間のパワーバランスの微妙な変化にこそ、究極のスリルがあるのだ。

米NBCが限界に挑戦

米国ドラマは、年々過激な描写が加速して好まれる傾向にある。それは規制の緩いケーブル局の番組の専売特許でもあるが、日本でいうところの民放にあたる地上波でも過激な描写は増えている。そんな中、米3大ネットワークのひとつであるNBCで放送されている本作は、ギリギリのところまで挑戦している点でも注目に値するだろう。

しかし、本作で特筆すべき過激さとは、残酷な描写をダイレクトに見せつけることではない。ハンニバルの料理に代表されるように、あくまでも視聴者の想像に委ねることによって、その過激さは大げさに言えば無限大となりえるのだ。説明過多にならず、映像として見せているものの、意味深なセリフによって視聴者の想像力を引き出す。こうした演出方法、作風は良質の映画を思わせるものであり、また放送局と作り手が視聴者を信頼しているからこそ、成り立つとも言えるだろう。

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