中央銀行は闘う 資本主義を救えるか 竹森俊平著 ~さまざまな魅力的な仮説 ただ、異論の余地も

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 バジョットは、モラルハザード問題をつねに考慮していた。危機においては、中央銀行は流動性を供給するしかないが、そうすることがむしろ無分別な行動をもたらす危険を考え、その危険をどう避けるかを考えていた。ところが、現在は、危機を回避することを優先して、長期的に生じうるモラルハザードを避けることが考慮されなくなっていることが問題であるように評者には思われた。

ギリシャが財政破綻することが本当にユーロの危機なのだろうか。ギリシャが国債を償還できなければ、南米でしたように債務の一部切り捨てをするしかない。そんなことをすれば、誰も新たに貸してくれなくなるから、財政支出を切り詰めるしかない。それはユーロの危機とは本来関係のない話ではないか。

ギリシャの財政破綻がユーロの危機になるのは、ギリシャの国債を保有するヨーロッパの金融機関が危機に陥るからではないか。ユーロの危機を避けたいのであれば、ギリシャ国債の暴落で損失を被った金融機関を各国政府が個別に救済すればよいことではないだろうか。それが政治的に困難だから、権力者は、訳のわからないことをいうのではないだろうか。

たけもり・しゅんぺい
慶應義塾大学経済学部教授。1956年生まれ。同大学経済学部卒業、86年同大学院経済学研究科修了。同大学経済学部助手、89年米国ロチェスター大学で経済学博士号取得。著書に『経済論戦は甦る』『資本主義は嫌いですか』『世界デフレは三度来る』など。

日本経済新聞出版社 2100円 314ページ

  

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