中央銀行は闘う 資本主義を救えるか 竹森俊平著 ~さまざまな魅力的な仮説 ただ、異論の余地も
評者 原田 泰 大和総研専務理事チーフエコノミスト
中央銀行は、経済学の教科書に掲載されていない広大な領域に踏み込んでいる、と本書はいう。「最後の貸し手」という言葉が広く解釈されて、中央銀行は、ついに「欧州統合」の救済者、あるいは「金融業の自立回復」の立役者にまでなっているという。その意味は何か。
ユーロによって通貨が統合されても、財政は各国別々で、財政状況は各国ごとに異なる。ギリシャのように、財政状況の悪化した国の国債価格は暴落してしまう。この状況に対して欧州中央銀行は、国債を買い支えることで欧州統合の救済者、あるいは、大胆な金融緩和によって金融業の利潤回復の立役者になっているという。
歴史的パースペクティブから繰り出されるさまざまな仮説は魅力的で、現状を評価する知識人や中央銀行総裁の言葉は興味深い。どの国の中央銀行総裁の言葉も理解しにくいものだとわかる。
ただし、評者はいくつかの疑問も感じた。金融政策を通じてインフレ率や失業率を管理しようとする考え方をケインズ的、金融機関や国家の経営や財政の安定化を目指す考え方をバジョット的と定義するのだが、この二つの考え方は必ずしも対立しない。デフレにならず失業率が低ければ名目所得も高く、金融機関の経営や税収の安定にも資する。ここで定義されたケインズ的考え方は、バジョット的考え方と矛盾しない。
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