「無意味な仕事」を続けた男が辿った最悪の末路 どうでもいい仕事は心をむしばんでしまう
それでエリックは、ひそかに反乱にでます。遅刻や早退をくり返し、毎日、ランチに酒を飲むようになりました(証言からすると、この会社では金曜日のランチには1杯のお酒を飲むことが推奨されています)。ランチタイムに外出して、それから散歩して数時間帰ってこない、あるいは、椅子に座ってずっとフランス語の新聞記事を読んで語学の訓練をする。辞めようとすると給料を上げる提案をされ、引き留められます。
そんなこんなでなかなか進展しないので、エリックもだんだん大胆になっていきます。かれは別の地域の同僚にたのんで、いんちきの会議をでっちあげてもらい、出張して一日ゴルフをしています。あるいは、別の地域でのでっちあげの会議では、ただ会議場所のセッティングだけしてもらって、あとは地元の友人といっしょにパブのはしごをして飲んだくれます。
だんだん生活も荒廃して、「髭剃りはとっくにやめていて、髪なんかレッド・ツェッペリンのローディーからパクったみたいになってい」たということらしいです。やがてかれは、これも視察名目の出張先(ブリストルです)で、ハウスパーティに入り浸り、ドラッグをやりながら3日間すごし、それでかれは本当に会社を辞めます。この証言をグレーバーにおこなった時点では、かれはドロップアウト文化のなかで野菜を育てながら心穏やかに生活をしています。
「おいしい」仕事を辞める難しさ
かれが本当に辞めるきっかけになったのは、そのハウスパーティでドラッグびたりの3日間のあと、「完全に目的がない[無意味な]状態で生きることが、いかに深刻につらいのか」に気づいたことでした。じぶんでもなにがつらいのか、よくわかってなかったのですね。
ここがBSJ論のとても重要なポイントのひとつです。エリックはどうみても、とても「おいしい」仕事に就いています。ところが、それがかれの心を徐々にむしばんでいったのです。このような経験は、かれだけにかぎったものではありません。『ブルシット・ジョブ』にあげられたほとんどの証言が、多かれ少なかれ「傷ついていること」の記録です。まあ、それがなければそもそも報告なんてしてこないでしょうが。
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