私に「金融」を考えさせた「3つの事件」 秋のマーケットをもっと知りたい、あなたへ

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さて、3つの事件と冒頭に書いたが、実は2つめもジャクソンホールで起きた。それは、イエレンではなく、ECB総裁のドラギの方であった。

「棚ぼた」だったECBドラギ総裁の「量的緩和爆弾」

これは、中央銀行関係者だけでなく、職業的トレーダーたちをも驚かせた。これまで、徹底的に排除してきた、毛嫌いしてきた量的緩和に踏み出すことをスピーチで示唆したからである。これには、市場関係者たちも驚いた。イエレンのスピーチにかすかな望みを抱いていたが、それには「予想通り」裏切られ、あきらめムードのところへ、思わぬ棚ぼたが別方面からやってきたのである。「最後のメシのタネが、こっちにあったか!」と。

それでも、彼らは半信半疑であった。ジャクソンホールのスピーチはFRB議長のためにあると彼らの間では誰もが思っていた。そこへドラギが爆弾を落とすとは信じられなかったのである。しかし、9月に入って、ECB理事会が、予想外の金利の引き下げのみならず、実際に量的緩和に踏み出すことを決定したのである。これは市場を驚愕させ、動かした。ユーロは暴落し、今後も下落トレンドが続きそうな気配である。これは欧州市場の終わりであるが、彼らにとっては、最後の稼ぎ時が棚ぼた的に降ってきたのである。

3つめの事件は、実は日本で起きた。GPIFを所管する厚生労働大臣に、昨今のGPIF改革議論の急先鋒の塩崎恭久氏が就任したからである。えさを構造的に奪い取られたトレーダーたちは、これに飛びついた。日本株のみならず、なぜか円安も進行したが、それはミニバブル、勢いというものだろう(モーメンタムという用語がよく使われるが、それが一歩進めばバブルである)。しかし、この話はまた別の機会にしよう。

金融市場の影響力はなくなったのである。それを示すのが、イエレンののんびりした退屈なスピーチであり、一方で、なくなったにもかかわらず最後に当局もトレーダーたちもすがろうとするECBの動きであり、これは欧州経済の危機感(焦燥感)を表しているといってもいいだろう。夏休みにいろいろなことが起きたが、実は、これは金融市場で何が起きても、実体経済には何も起こらないことを再度確認した事件なのである。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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