要は、労働市場は、構造的変化が起き、the great recessionの影響を受けているから、数字だけの失業率や雇用者数などから、これまでの経験則で労働市場と景気の関係を推測するのは妥当ではなく、現在は判断が非常に難しい、ということを言っているだけだった。その中で議論されたさまざまな要素も、ありきたりのことで、それらに対する深い洞察も感じられず、凡庸の極みのようなスピーチであった。
「大恐慌」と「2007年夏以降の危機」の次元の違い
ところで、the great recessionという表現は、個人的には大嫌いであるし、客観的に見ても妥当ではないと思う。1920年代末の株価暴落から始まる1930年代の大恐慌をthe great depressionと呼ぶが、これをもじったものだが、次元が違う。大恐慌は失業率が米国で25%に達し、農産物の価格が60%以上下落し、この危機からの回復は世界大戦を通じてようやくなされた(世界大戦でも根本的解決はせず、1950年以降の朝鮮戦争および世界的な景気回復によって、米国も回復したという説もある)。
今回は、2008年のリーマンブラザーズの破綻で、衝撃は大きかったが、終わってみると、数年で景気は大きく回復し、世界経済は順調であり、大恐慌とは比較にならない。そもそも、たかだかrecession, 景気後退にgreatもくそもないのであり、theをつけるなど、大げさきわまりない。
そして、補足しておくと、the great recessionはリーマンショックからではなく(そもそもリーマンショックというのは俗語で、欧米エコノミストはこの表現は使わない。金融危機というのが一般的な用語だ)、そして、この金融危機もリーマン破綻で始まったのではなく、2007年夏からであり、きっかけの事件ですらリーマンではなく、パリバショックと呼ばれるものである。
しかし、一方で、the great recessionなどという大げさな名前をつけたかというと、それにはそれなりの理由がある。それは、彼らにとっては、大恐慌並みのショックであったからだ。
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