彼らとは、投資家、それも、金融市場におけるトレーダーや、彼らを抱えるような機関投資家たちのことである。市場関係者と言われるが、要は、職業的トレーダーたち、つまり、プロのトレーダーであるが、相場の上げまたは乱高下で日々の糧を得ている(というには額が大きいし、多すぎるが)人々である。
彼らにとっては、パリバショック、リーマンショックに象徴される、金融バブル崩壊は衝撃的だったのである。それは、証券取引所の破綻をもたらした20世紀の大恐慌、the great depressionに近い衝撃をもたらしたと考えたのである。
もちろん、大恐慌前の株価暴落によって、それまでのインサイダー取引をはじめとするありとあらゆる不正にまみれていた証券取引所(会長ほか、すべてのブローカーがぐるになって不正を行っていた)の大改革となり、SEC(米国証券取引委員会)が生まれ、証券取引法が生まれ、ブローカー中心の市場から投資銀行中心の市場になり、会計事務所と投資銀行がコンプライアンスとガバナンスの中心となる構造ができあがった。
イエレンの「超退屈なスピーチ」の背景にあるもの
あの当時のショックよりは、やはり小さかったのであるが、それでも、絶対君主の一人だったリーマンが破綻し、モルガンスタンレーまでが破綻の可能性となれば、投資銀行業界は終わりであるし、業界の消滅、少なくとも縮小という意味では、時代が変わったのである。実際、英国を中心に規制は大幅に強化され、以前のようには儲からない構造となり、業界の衰退が進んでいることは間違いがない。少なくとも、業界の人々の所得合計額は激減した。
この流れのひとつの現れが、イエレンの退屈なスピーチなのである。これまでは、ジャクソンホールのスピーチで市場が大きく動いた。その日の反応だけでなく、流れが変わった。だから、多くの投資家たちは、夏休みであるにもかかわらず(あるいはだからこそ)、この日を待ち続けてきたのである。しかし、今年はジャクソンホール待ちという声も一部に聞かれたが、実際、そのような動きはなく、実際、スピーチ後、何の影響もなかった。
これは、ジャクソンホールの今年のテーマが労働市場だったから、直接的な影響があるという状況はもともと想定しにくかった。そして、何より、これはイエレンの側にも影響を与えていたはずだ。なぜなら、好むと好まざるとにかかわらず、金融政策は、投資家たちにcaptureされてきたからである。すなわち、投資家たちが金融政策を部分的に支配してきたのである。
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