パナソニック、「Technics」復活の舞台裏 中村-大坪時代の"誤り"を修正
ブランド復活は、B2Cのエンドユーザー向け製品だけでなく、カーエレクトロニクスなどB2B製品に関しても応用できるだろう。カーエレクトロニクスはパナソニックではなく、Technicsだからできる切り口もある。力を入れている飛行機向けエンターテインメントシステムとして、ビジネスクラス以上の座席向けにTechnicsを訴求する場もあるはずだ。
これはTechnics、すなわちオーディオだけに関連した話ではない。映像機器の画質に関しても、やはり最高のものを追求していかなければ、ハイエンド製品以外のパナソニック製品に悪影響が及ぶ。だからこそ、しっかりと差異化技術に取り組まねばならぬということだ。
ブランド復活のキーマンたち
技術は投資をすればすぐに生まれるものではない。新生Technicsも新たなエンジニアが作り上げた、まったく新しい技術に基づくブランドではない。Technicsブランドのディレクターでパナソニック理事の小川理子氏は、入社後の面接でオーディオ部門配属を希望。これからオーディオ市場は縮小するから、別の花形部署にと話す人事担当に「私はオーディオをやるために松下に来たんです!」と直訴した根っからのオーディオエンジニアだ。
ジャズピアニストという別の顔を持ち、音楽家として、オーディオエンジニアとしてオーディオシステムに関わってきた小川氏だが、他のメンバーも何らかの形でオーディオを目指してきた人物ばかりだ。
たとえばプレーヤーとアンプの企画を担当したチーフエンジニアの井谷哲也氏は、DVD-Audio対応の高音質プレーヤーなどを担当した後、さまざまな高級ブルーレイレコーダなどにも取り組みながら、高品位プレーヤー開発のノウハウを溜め込んだ。
他にもさまざまな分野でオーディオ技術に携わり続け、音質を高めるためのノウハウや部品供給元との連携を続けてきた結果がTechnics復活へとつながっている。
Technics復活を考えていると聞いたのは2013年夏のことだったが、そのころはまだ正式にTechnicsブランド復活は決まっておらず、研究開発の予算も本格的には付いていなかった。聴かされた音がどのようなシステムから出ているものかも解らず、漠然と「どう思うか?」と問われたことを憶えている。
その後、これほどの短期間で商品化に漕ぎ着けたことに驚いているが、それが可能だったのはTechnicsブランドが解体された後も、何らかの形で”音を良くするノウハウ”を持ち続け、また音楽と音の関係に理解ある人間が要職にいたからだった。失われた技術のはずなのに、復活して若いエンジニアへと伝える価値ある技術を再び作る。ずいぶん懐の深さがあったものだと感心していたら、井谷氏から「本田さんも当事者の一人ですよ」と声をかけられた。
それは、かつて以下のようなことがあったためだ。
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