価値「創造」だけでは本業不振は脱せない理由 30分類の価値獲得で考える利益イノベーション

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下の図をご覧ください。この図は、横軸は価値創造の進化を、縦軸は価値獲得の進化をそれぞれ表しています。その業界の標準的なビジネスモデルをとる限り、図中の左下にいます。価値創造をお題目に掲げる限り、ほとんどの企業は横軸に沿って価値創造イノベーションを進めようとするはずです。

出所:『収益多様化の戦略』22ページ

しかし、現在のようなデジタルが当たり前の時代で、かつ有事を経験した私たちにとっては、価値獲得を優先させるルートをとるのが望ましいといえます。

最初から利益イノベーション(Y1)をめざし、さまざまな形で利益を取ることを想定し、そこから価値創造イノベーション(X2)に取り組むのです。今以上に利益を生むことを想定し、そこから事業を組み立てる。利益を収穫する器を事前に準備するというわけです。

企業は、価値創造と価値獲得の両方を達成する必要があります。これは、言い方を変えれば、結果として両方を達成できるなら、利益イノベーションを優先させても何も問題ないといえるのです。

ソニーが復活できた理由

価値創造イノベーションには、アイデアや技術的な限界、資金的な制約があります。それを乗り越えてこその価値創造とはいえ、あまりにもハードルが高すぎます。しかし、利益イノベーションが先行すると、結果的に価値創造のイノベーションのきっかけを生み出せます。

川上昌直(かわかみ・まさなお)/兵庫県立大学国際商経学部教授。1974年大阪府生まれ。福島大学経済学部准教授などを経て、現職。博士(経営学)。「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。ビジネスの全体像を俯瞰する「ナインセルメソッド」は、規模や業種を問わずさまざまな企業で新規事業立案に用いられ、自身もアドバイザーとして関与している。専門はビジネスモデル、マネタイズ(撮影:尾形文繁)

ただちに利益から思考するという通常とは異なるプロセスを経ることで、新たなアイデアやヒントがもたらされることがあるからです。また、利益から逆算するため、暗中模索するよりは、価値創造イノベーションの方向性が明確になります。

価値創造に邁進してきた企業は、すぐさま利益イノベーションに乗り出すシナリオには抵抗があるかもしれません。本当に儲かるのか、信憑性があるのか、疑いたくなるのもわかります。

しかし、変革のシナリオをとった企業は多くあります。リースの価値獲得を活用してサービス業へと舵を切ったヒルティ、サブスクリプションで史上最大の成功を収めたセールスフォース・ドットコム、プロダクト販売を定額制サブスクリプションへと転換することでビジネスモデルを変革したアドビ。

そして、リカーリングモデルで復活した日本が誇るエレキ企業のソニーグループなどです。いずれも、実際に獲得できる利益に問題意識を持ち、利益イノベーションを重視して、新たなビジネスモデルを生み出したのです。

価値獲得を変革するからこそ、価値創造を大きく変えるきっかけになり、結果として革新的なビジネスモデルが生まれる。利益イノベーションに取り組んだ企業は、このことを教えてくれるのです。

(構成:三浦たまみ)

川上 昌直 兵庫県立大学国際商経学部教授

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かわかみ まさなお / Masanao Kawakami

1974年大阪府生まれ。福島大学経済学部准教授などを経て、2012年兵庫県立大学経営学部教授、学部再編により現職。博士(経営学)。「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。ビジネスの全体像を俯瞰する「ナインセルメソッド」は、規模や業種を問わずさまざまな企業で新規事業立案に用いられ、自身もアドバイザーとして関与している。専門はビジネスモデル、マネタイズ。主な著作:『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)、『ビジネスモデルのグランドデザイン』(中央経済社)。

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