6年前、父を亡くした娘が結婚に踏み切れない訳 小説「さよならも言えないうちに」第4話全公開(2)

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祐介が路子のあとを追えなかったのは、路子の心の問題に自分の立ち入るすきがないことをよく知っていたからだ。

祐介はそれ以上何も語らず、静かに頭を下げて店を後にした。

その日の夜。

閉店時間を過ぎても、一人の男性が二人掛けのテーブル席に座したまま帰るそぶりも見せず、パンフレットを眺めていた。ほうっておけばいつまでも帰らないかもしれない。それでも時田数は黙ってカウンターの中を片付けている。聞こえるのは柱時計の時を刻む音だけ。

カランコロン

カウベルが鳴ったのに、数は「いらっしゃいませ」とは言わない。まるで誰が入ってくるのかを知っていたかのように、ただ視線を入口に向けただけだった。

「数ちゃん、電話、ありがと」

入ってきたのは看護服姿の高竹である。はぁはぁと肩で息をする高竹に、数が水の入ったグラスを差し出した。

「ありがと」

高竹は水を一気に飲みほす。

「あ、そうだ」

グラスを返すと、高竹は喫茶店の玄関にとって返した。玄関口で声が響く。

「入んないの?」

「え、でも」

「いいから、いいから」

そう言って高竹に背中を押されて入ってきたのは、昼間、父を助けたいとこの喫茶店を訪れていた路子だった。

路子は申し訳なさそうにうつむいている。

「階段の途中にいたから……」

連れてきた、と高竹は数に目で訴えた。数は路子を見据えて、いらっしゃいませではなく、

「こんばんは」

と、声をかけた。営業時間は終わっている。

「こ、こんばんは」

路子が答える。

その間に高竹は路子の脇をすり抜け、パンフレットを眺める男の横に立った。

「房木(ふさぎ)さん」

高竹は男に向かって、そう声をかけた。

房木と呼ばれた男は一瞬、高竹の顔を見たが、何も言わず再びパンフレットに目を落とした。

「房木さん、今日は座れましたか?」

高竹の質問に、房木と呼ばれた男は初めて顔をあげて、一番奥の席に座る白いワンピースを着た女を見つめながら、

「ダメでした」

と、答えた。

「そうですか」

「はい」

「ここ、今日はもう閉店時間を過ぎているようなので帰りませんか?」

「あ……」

房木は、ハッとして店内の大きな柱時計に視線を走らせた。時計の針は午後八時三十分を示している。

「すみません」

あわててパンフレットを片付け、数の待機するレジに向かう房木。高竹はその姿をじっと優しい目で見つめている。

静かな店内に残ったのは?

「いくらですか?」

「三八〇円です」

「じゃ、これで」

「ちょうど、いただきます」

「ごちそうさまでした」

房木は急ぎ足で店を出て行った。

カランコロン

高竹は数に小さく会釈すると、

「連絡ありがと」

と、笑顔を残し、房木のあとを追って店を後にした。

カランコロン

静かな店内に数と路子、そして、白いワンピースの女だけが残った。

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