6年前、父を亡くした娘が結婚に踏み切れない訳 小説「さよならも言えないうちに」第4話全公開(2)

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路子はこの時初めて女の顔を見た。肌が白く、うつろな瞳はどこを見ているのかまったくわからない。その眼差(まなざ)しはどことなく目の前にいるウエイトレスと似ているような気もする。なにより不思議だったのは、いくら室内とはいえ、外に出ればコートが必要な季節であるのに、女は半袖であることだった。

女は路子の視線など気にする様子もなく、ゆっくり立ち上がると、スーッと足音も立てずにトイレへと消えた。

トイレに消えた女に気を取られている路子の背後で、

「わかりました」

という数の声がした。

あの日に戻してください、という路子の言葉に対する返事である。

それから数はさっきまで白いワンピースの女が座っていた席に路子を座らせ、過去に戻るためのいくつかのルールを説明しはじめた。

昼間聞いた、

[過去に戻ってどんな努力をしても現実を変えることはできない]

というルールの他にも、

[この喫茶店を訪れたことのない者には会うことはできない]

[過去に戻れる席が決まっている]

[席を立って移動することはできない]

[制限時間がある]

というルールがある。

(ルール、多くない?)

「そんなに短いんですか?」

路子の戸惑いをよそに、キッチンから銀のケトルと白いカップをトレイに載せて戻ってきた数が、淡々と話を進める。

「今から私があなたにコーヒーを淹れます」

そう言って数は、路子の前にカップを置いた。

「コーヒー?」

路子が首を傾(かし)げる。過去に戻ることとコーヒーの関連性がわからない。

「過去に戻れるのは、私がカップにコーヒーを注いでから、そのコーヒーが冷めきるまでの間だけ」

「え? そんなに短いんですか? それってさっき説明してくれた制限時間ってこと?」

「その通りです」

このルールについては大いに不満があった。あまりに曖昧で、あまりに短い。でも、きっと、何を言ってもどうすることもできないルールに違いない。昼間、父を助けることはできないと言った数の毅然(きぜん)とした態度が思い出された。

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