orange→オランゲ…スペルは気にするな! 日本の英語教育を変えるキーマン 斉藤淳(1)

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安河内:hatとhutの違いもわからないし、発音記号も読めなかったのです。それでもペーパーテストだから入れちゃう。面接試験も英語面接があるんですけど、それもデタラメな英語で「イングリッシュ・イズ・ファン、アイ・ライク・イングリッシュ」とか。

斉藤:その程度なんですよね。僕も覚えてます。2次試験の面接なんか、本当に何も言えなかった。

メンタルバリアとコンプレックスの壁

安河内:それで、入学後も私がしゃべっていると、クラスメートがくすくす笑ったりして、そういうのでものすごい大きなコンプレックスを抱えましたねぇ。

私の場合、ふたつのブレークスルーがあったんですね。ひとつは、結局、聞いてても何してもできるようにならないから、きちんと記号とか舌の位置から勉強し直して、発音を体系的にやったのです。それで聞こえるようになってきた。

斉藤:やっぱり発音を勉強しないと聞けないですよね。あと、僕の場合、中学のときに心から恩師と呼べる先生がいたのです。ちょうど英語弁論大会の学校代表に選ばれて、暗唱の部に出たんですけど、そのときに徹底的に発音記号の指導をしてもらったのです。

安河内:ああ、なんてすばらしい!

斉藤:-m-は口を閉じて鼻から息を出すとか、母音も一つひとつ、口元矯正ですよね。僕はそれをやってたんですよね、幸運にも! だから、中学生、高校生のうちに発音記号は完璧に読めたのです。

そういう意味でいうと、苦労せずに済んだ。逆に大学生になって家庭教師をしてみると、首都圏の進学校に通ってる生徒が発音記号を読めないことに驚きました。

僕らの大学の同級生たちが発音記号をどういうふうに勉強していたのか知りませんでしたけど、あえて言わせてもらうと、中高生で英語で苦労している子たちと自分の経験を比べてみると、いちばん大きな違いは文法でも単語力でもなんでもなくて、発音から入るか否かだと思ったんですよね。だから、僕は今でもうちの教室に通ってくる中学生には、最初はとにかく発音をしっかりやります。小学生に文法を教えるよりもフォニックス(発音)徹底。結局、音なんですよね。

安河内:それは大賛成です。なぜかというと、私はふたつ経験してるんですよ。日本の受験英語。それで大学に入って打ちのめされた。まったく聞こえない、まったくしゃべれない。そこで、発音記号と発音を1回勉強し直した。-th-もわかるようになったし、4つの“ア”の音もわかるようになったし、まぁ、-l-と-r-はいまだに苦労するけど、それなりに話すときには分けて発音できるようになった。そういう受験と発音の勉強という、ふたつを経験して、絶対に発音は早い時期にきちんと教えなければならないという確信に至りました。

同時に私の場合、メンタル・バリアというのもありました。当時、みんながアメリカに行ってたじゃないですか。

斉藤:バブルの時代ですね。

安河内:私も行かなきゃいけない気になって。でも、アメリカに行っても、1カ月間、何も起こらなかったんです。発音を直してTOEFL PBTのリスニングだと満点近く取れるようになっていたのですけど、アメリカに行っても何も起こらない。しゃべるスピードがあまりにも早いし、語彙のレベルも高い。それで引きこもりみたいになっちゃって。

それでも、少し経った頃にちょっとした旅をしてみたのです。そうしたら、ある牧場でデタラメ英語でもどんどんしゃべっているヨーロッパの人たちとかアジアの人たちに出会って、彼らに混じってやってみたのです。上智大学と全然環境が違うのです。みんなデタラメ。その中で自分の持てる発音力と語彙力とで、参加して議論してみると、どういうわけかものすごい大きなブレークスルーになってたんですよね。そこから英語が話せるようになったのです。

斉藤:うんうん。

安河内:そういう経験から、ふたつの要素があると考えたのですね。ひとつは、ちゃんとした音とリスニングの勉強はきちんとやる。しかしながら、それを絶対視せずに、間違ってもいいから、いろんな国の人がいる議論の中に参加してみる。トライしてみるということですね。

斉藤:自分なりにアウトプットする経験を積む。

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