安河内:場数なんです。日本人で英語を話すのに苦労している人に見掛けるのは、発音の勉強を一生懸命にやって完璧な発音を目指しているのだけれども、逆にそれがメンタル・バリアになって、しゃべれなくなっているパターン。勉強しながら使って直す、そういうことなんじゃないかなぁ。
完璧じゃなくてもトライしてみろ
斉藤:僕はよく英語学習を自転車をこぐことに例えるのですけど、自転車をこぐのに、全員が競輪選手みたいなフォームでこぐ必要はないですよね。トライアスロンに参加するような、エネルギーロスの少ないこぎ方は理想的ですけど、自転車をこぐ目的は、いろいろあるわけです。買い物に行ったりとか。
安河内:ハンドルの持ち方を知らなかったり、ペダルを逆に回したり、そういう基本的なことは間違っちゃダメですが、普通に乗れればいいですもんね。
斉藤:そう、普通に乗れればいいんですよ。
安河内:英語の発音も、まぁ、通じるところまでは直さないとならないですが。残念ながら日本の高校生の発音ではとても通じない。
斉藤:通じないですね。あと、先生も生徒の発音を直してあげないですよね。
安河内:あまりにもこだわりすぎるとダメだけども、ある程度まではやらなくちゃならない。この見極めも難しいですね。「ネイティブみたいな発音」というわけじゃない。でも通じないといけない。
斉藤:音読するとかシャドウイングするとかいう習慣の形成を、普段、学校でやらないというのはマズいですね。
安河内:まったくそのとおりです。私もそれを繰り返し言い続けているのです。音読というのは、ちょうど私の時代は国弘正雄先生が上智大学で教えておられて、私も2年間習い、その後も可愛がっていただいて、基本的な音読法を広めようとしているのですが……。なぜか5年くらい前に音読が大ブームになって、高校生や中学生も、音読音読っていってやっているんですが、やり方がデタラメなのです。
斉藤:デタラメでしょうねぇ。
安河内:ネイティブ・モデルを模範にしないで、パティエンス(patience)、パティエンスって繰り返して、そんな音読をやって意味があるのかなぁ。
斉藤:発音の習得と音読をセットにしてないですよね。あと、読解のトレーニングと音読もうまく連動していないことが多いですし、それ以前に単語を覚え込むときに、パティエンス、パティエンスって書きながら、漢字を覚えるように手に覚えさせてもダメなんですよね。口の動きと一緒にやらなきゃ。そういう素振りの段階がうまくできていないのに、いきなり試合をやってるような、そういうデタラメさを感じます。
安河内:そうですね、私が見ている生徒たちでも、日本の単語テストはスペリング重視なんですね。見て意味を認知するというよりは、とにかくスペリングが書けるかということに意識がある。
斉藤:オランゲ(orange)の世界。
安河内:そう。だから、大学に入った生徒でもchildをチルドって読んでる。
斉藤:冷蔵食品じゃないっていうんですよね。
安河内:フリエンズ(friends)とかって、スペリングを書くための発音でローマ字読みで覚えてるというパターンが、けっこうあります。
斉藤:一方で、私の場合、うちの子どもはアメリカの現地校に通っていたのですけれど、アメリカの国語教育、つまり英語教育はコンピュータがスペリングをチェックしてくれるから、スペリング自体の正確さにはこだわらない教え方をしています。フォニックスで識字教育をする、という方向にシフトしています。
だから“クッ”の音ならcでもkでもとにかく書ければいいと。スペリングは不正確だけれども、音を拾って書くということに教育の焦点が移っているのに、日本はまだまだスペリング重視ですよね。
スペリングなんて気にするな!
安河内:スペリングが大事じゃないとは言わないですが、過度に重視してるというのは……。
斉藤:ちょっと執着しすぎで、学習全体のインペディメント(障害)になっている可能性はありますね。
安河内:はっきりいって、私はスペリングはあんまりできないです。
斉藤:僕もそんなには……。
安河内:正確に書かないと、○をくれないっていう学校での教育があるんですよね。
斉藤:テクノロジーが変わって、人間が覚えておいたほうがいい知識というのが、変わっているわけですよ。変わっているのに、大学入試の内容がまったく以前と同じなので、生徒の学習のやり方、覚える知識も変わらないという現状ですよね。
安河内:生徒たちも、発音記号は読まないでスペリングばっかり覚えたりする。
斉藤:だって、スピーキング・テストはないですから。うちの教室に来る生徒に、学校でどの程度発音を教わるかと聞くと、首都圏の進学校はむしろ田舎の平均的な高校より発音指導がひどいかもしれないですね。何もしなくても生徒が集まるような状況があるからですかね。
(構成・撮影:宮園厚司)
※次回は9月3日(水)に掲載します。
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