いま再び「幸福」が社会的テーマになっている理由 「自己実現」のさらにその先にある「自己超越」
「幸福」をめぐる展開の大きな流れ
もともとこうした「幸福」ないし「ウェルビーイング」への注目は、すでにある程度知られているように、ヒマラヤのふもとに広がる小国ブータンが1970年代から唱えている「GNH(グロス・ナショナル・ハピネス、国民総幸福量)」に1つのルーツを持つものだった。
時代の流れを確認すると、こうした話題への関心はリーマン・ショックが起こった2008年頃から新たな局面に入り、たとえば2010年には、フランスのサルコジ大統領(当時)の委託を受け、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツやセンといった著名な経済学者が「GDPに代わる指標」に関する報告書を刊行している。
また、先進諸国の集まりであるOECD(経済協力開発機構)も「Better Life Initiative(よりよい生活に向けたイチシアチブ)」と呼ばれるプロジェクトをスタートさせ、2011年には幸福度指標に関する報告書(“How’s Life?: Measuring Well-being”)をまとめ、さらに続編を逐次公刊している。
日本での動きはどうか。日本の場合、内閣府に設置された「幸福度に関する研究会」の報告書が2011年にまとめられているが(私も委員の1人として参加)、実は日本において特徴的なのは、意外にも地方自治体がこうした動きに先駆的に取り組んできていることである。
最も先駆け的な展開を進めたのは東京都荒川区で、同区は2005年という早い時期に「GAH(グロス・アラカワ・ハピネス。荒川区民総幸福度)」を提唱するとともに、2009年には区独自のシンクタンク(荒川区自治総合研究所)を設立し、住民の幸福度に関する調査研究や指標づくりに着手し、2012年には6領域、46項目にわたる独自の幸福度指標を策定し公表している。さらに指標づくりだけにとどまらず、並行して「子どもの貧困」「地域力」といったテーマを順次取り上げ、幸福度に関する研究を具体的な政策にフィードバックさせる試みを行ってきているのである。
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