いま再び「幸福」が社会的テーマになっている理由 「自己実現」のさらにその先にある「自己超越」

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さらに、以上のような展開に共鳴した全国各地の市町村が、「幸せリーグ(住民の幸福実感向上を目指す基礎自治体連合)」というネットワークを発足させ(2013年)、幸福度に関する指標づくりや政策展開についてさまざまな連携を進めている(現在約90の市町村が参加しており、私は顧問の1人)。

ちなみに、都道府県のレベルでも幸福度指標に関するさまざまな動きが進んでいるが、特に近年、幸福度指標に関する展開を丹念な調査とともに進め、かつそれを政策に具体的につなげる形で展開してきている県として岩手県が挙げられる。同県は2016年から2017年にかけて有識者からなる「『岩手の幸福に関する指標』研究会」を設置して検討を行い、独自の幸福度指標を策定すると同時に、さらにその内容を2019年3月に策定された「いわて県民計画」に盛り込んだのである。

以上、企業を中心とする「幸福」あるいは「ウェルビーイング」への昨今の関心の高まりから始め、この話題をめぐる世界と日本の大きな流れを確認したのだが、こうした話をすると、ある意味で当然のことながら、次のような根本的な疑問が浮かんでくるだろう。それは、

「『幸福』は個人によってきわめて多様かつ『主観的』なものであり、それを数字で指標化することなどできないし、ましてやそれを行政が『政策』に活用するといったことはありえない」

という疑問である。

これはごくもっともな疑問で、このテーマだけで1冊の本になるような広がりと深さを持つような話題だが、しかし基本的な論点はある意味でシンプルであり、以下これについてさらに考えてみよう。

幸福の重層構造:個体・つながり・自己実現

ポイントは、幸福をいくつかの重層的な構造からなるものとしてとらえるという点だ。

この点について、図1を見ていただきたい。

図1 (出所:筆者作成)

(外部配信先では図を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 

これはいま述べた「幸福の重層構造」を示したもので、まずピラミッドの図の土台のほうは「生命/身体」に関わるような次元である。具体的には日々の十分な食料を得ているとか、身体の健康や安全が保たれているといった基本的なレベルであり、これは人間が生きていくにあたり不可欠のニーズに対応するもので、“幸福の物質的基盤”とも言える。それは「幸福の基礎条件」あるいは「幸福の土台」をなすものであり、しかもこうした次元は個人差を超えて大方共通しており、「人間」にとって普遍的なものと言える。

以上が主として「個体」レベルに関わるものとすれば、真ん中にあるのは「コミュニティ」あるいは他者とのつながりに関わる次元である。いうまでもなく、人間はコミュニティあるいは社会的関係性の中で生きる存在であり、たとえば狩猟採集の時代を想像すれば見当がつくように、食べ物を得るにしても外敵から身を守るにしても、人間は“1人では生きてはいけない”生き物なので、「コミュニティ」を作ることを通じて個体としての「生存」を確実にしようとしたわけである。

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