仏教に学ぶ「自分さえ自分の頼りにならない」真理 好ましくない変化は認めないという心が間違い
箱入り娘、男と駆け落ちする
のちに悟りをひらいた、パターチャーラー長老尼の物語を紹介しましょう。
この人は箱入り娘でした。家はたいへんなお金持ちでしたから、現代の日本みたいに、子どもには苦労させずに育てたのです。贅沢させてわがままもぜんぶ聞いてあげて、欲しいものはなんでもあげる。そういう暮らしでした。
そのうち年頃になった娘は、大勢いた召使いの中でも、奴隷として働いていた格の低い若い男に、一瞬で恋をしてしまいました。でも相手にとっては、しゃべったら殺されるかもしれないくらい、格の差があるのです。ですから、なかなか話はできませんでした。
でも、その娘はわがままで何もわかりませんから、「なんでそんなに怖がるの? 私のこと嫌い?」と聞くのです。男は「あなたはすごくかわいいけど、私には私の立場がありますから」と答えました。
すると、今度は「お母さんやお父さんがうるさいなら、2人でどこかに駆け落ちすればいい」と平気で言います。駆け落ちなどしたら、それからは2人だけの力で生活しなくてはいけないのですが、この娘は贅沢に育てられすぎて、人生をまるっきりわかっていないのです。
娘はその後も、男をしつこく駆け落ちに誘いました。そしてある夜、とうとう男を引っ張って逃げたのです。
男は奴隷ですから、捕まったら殺されます。ですから、いったん家を出てしまったら、村にも町にも、国にいることさえもできません。そこでほかの国に逃げて、激しい労働でやっと暮らせるような、ずいぶん貧しい生活をしたのです。
しばらくして、娘は妊娠しました。妊娠すると、心配で不安でお母さんのことが恋しくなり、「子どももそろそろ生まれるから、家に帰りましょう」と言い出しました。
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