エヴァを理解するために必要な「オタク」の概念史 作り手の葛藤と視聴者のそれが同時代的に共鳴

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エヴァンゲリオンが誕生した時代のオタクとは?(写真:アフロ)
『エヴァンゲリオン』の軌跡を通じて、オタク化していった戦後日本の文化を論じた批評家の藤田直哉氏の著書『シン・エヴァンゲリオン論』
そもそも、『エヴァ』の生まれた1990年代、「オタク」とはどのような存在だったのだろうか。SNSでもしばしば論争のテーマとなる「オタク」というキーワードについて再検証したくだりを、同書より一部抜粋してお届けする。

「オタク」とは何か

『新世紀エヴァンゲリオン』とは「オタクの実存」を描くメタアニメである。ただし、それは単純にオタクを批判するだけのものではない。庵野秀明自身がアニメ業界屈指の極め付きのオタクである。彼は結婚してからも戦隊モノや特撮を熱心に観ているし、アニソンを熱唱する。だから、ここでいう「批判」とは、外から一方的に断罪するのではなく、オタクである庵野秀明自身による内省と自問自答と葛藤が形を変えたものという側面があると理解したほうがいい。

とはいえ、若い読者には、ここで言う「オタク」批判はピンと来ないかもしれない。現在は、アニメやマンガは、ポップカルチャーであり、メジャーな大衆文化となっている。日本の主要文化の1つと言っていいぐらいだ。現在の用語法における「オタク」とは多くの場合、そのようなアニメやマンガが好きな人、というぐらいに薄まった意味になっている。

だが、言葉や概念は、時代や状況の中で中身が移り変わり、違う意味を持つ。『エヴァ』を理解するためには、「オタク」という言葉や概念がどのように変遷してきたのかを知る必要がある。ここでは、簡単に「オタク」という概念史を素描する。なお、「おたく」と「オタク」は違うものを指すとされることもあるが、本論では同じものとして扱うことにする。

「おたく」という言葉が、ある集団を指す名称として初めて活字で定義されたのは、『漫画ブリッコ』1983年6月号に掲載された中森明夫「『おたく』の研究①」によってである。コミックマーケット(コミケ)に行った中森が、そこにいた人々をこのように描写している。

「ほら、どこのクラスにもいるでしょ、運動が全くだめで、休み時間なんかも教室の中に閉じ込もって、日陰でウジウジと将棋なんかに打ち興じてたりする奴らが」「普段はクラスの片隅でさぁ、目立たなく暗い目をして、友達の1人もいない、そんな奴」「それも普段メチャ暗いぶんだけ、ここぞとばかりに大ハシャギ」「それがだいたいが10代の中学生を中心とする少年少女たちなんだよね」

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