エヴァを理解するために必要な「オタク」の概念史 作り手の葛藤と視聴者のそれが同時代的に共鳴

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つまり、普段暗くて、ファッションに興味がなく、コミケだとやたらにはしゃぐ「少年少女」たちである。

そして、その対象となる趣味をこう挙げる。鉄道、SF、コンピューター、アイドル、オーディオ。他の特徴として、「牛乳ビン底メガネの理系少年」、「有名進学塾に通ってて勉強取っちゃったら単にイワシ目の愚者になっちゃうオドオドした態度のボクちゃん」というように、理系やガリ勉、そしてファッションの苦手さや対人コミュニケーションの不得意さという性格までが「おたく」に含意されている点に留意してほしい。科学や技術がたくさん現れ、技術用語や哲学用語を駆使する『エヴァ』がターゲットに想定していたのは、このような意味での「オタク」に近いのだと思われる。

中森明夫は「おたく」をこう命名する。「それでこういった人々を、まぁ普通、マニアだとか熱狂的なファンだとか、せーぜーがネクラ族だとかなんとか呼んでるわけだけど、どうもしっくりこない。なにかこういった現象総体を統合する的確な呼び名がいまだ確立してないのではないかなんて思うのだけれど、それで(中略)彼らを『おたく』と命名し、以後そう呼び伝えることにしたのだ」。

つまり、何かに熱中したり熱狂したり好きであるというだけでなく、「ネクラ族」的な暗さやコミュニケーション不全の側面を含んだ人々を指す概念として、「おたく」は初めて活字上で定義された。

「エヴァ」はコミュニケーションの不器用な人たちの話

庵野は『エヴァ』の放送開始時に、「この『エヴァンゲリオン』という話は、コミュニケーションの無器用な人たちの話なんだよね。他人との接触を怖がって自分のカラに閉じこもっちゃった男の子と、表層的なつきあいに逃げることで自分を守っている29歳の独身女──そういう人間たちが、どう変化していくんだろうっていう話だから」(『月刊ニュータイプ』1995年11月号別冊付録「NERV FILE」)と述べているが、本書の言う「オタク」とは、単にアニメやマンガが好きな人ではなく、コミュニケーションの不器用さや内向性まで含意していた1980~1990年代の用法を念頭に置いている。

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