時代映すヒットCMから読み解く「家族像」の大変化 かつては「亭主元気で留守がいい」、今は?

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東京ガスの「家族の絆」は、2008年から今も続くシリーズCMである。料理をテーマに家族の物語を綴り、いずれも名作ぞろいだ。「お弁当メール」(2010年)は息子のお弁当を作り続ける母の姿を描き、数々の賞を受賞した。思春期の息子のために作るお弁当を、母からのメールに見立てているのが秀逸だ。

応援、激励、お祝い、季節の移り変わりなど、毎日のお弁当に込めた母のメッセージ。息子からの返信は、テーブルの上にそっけなく置かれた空になった弁当箱だけ。それをおいしく食べてくれた証と喜び、来る日も来る日も弁当を作る母の姿に涙腺が緩む。最後の日は自分にもお弁当を作り、味わいながらわが身をねぎらう母。そして戻ってきた最後の日の弁当箱のなかに、ぶっきらぼうな息子からの感謝の手紙を見つけるラストシーンに、涙が止まらなくなる。まるで一編の映画を観るようだ。

このシリーズが描く一つひとつのエピソードは、平凡な日常の風景である。しかしその日常が繰り返されることによって、家族の絆は確固たるものになっていく。料理をひたすら作り続ける行為がいかに強く家族を結びつけるものであるか。そのことが実感としてひしひしと伝わる。

定点観測的な手法で家族の歴史を描く

日本生命の「見守るということ。」(2018年)は、父の目線による映像とナレーションで、娘(清原果耶)の成長を綴る感動作だ。カメラに向かい父の視線を見つめ返す娘は、笑ったり、泣いたり、はしゃいだり。思春期には反抗的な態度をとることもあった。そんな娘が、いまは大学の受験勉強に励む日々を送っている。その日常をさらに見守り続ける父。

あたかも父親が撮ったホームビデオのような娘の成長物語だが、すでに父は亡くなっており、娘を天国から見守っていると徐々にわかってくる仕掛けだ。大学に合格した娘が空を見上げ、最後に天国の父に話しかける姿に心が震える。

この2作品に共通するのは、視点を定めた定点観測的な手法で、家族の歴史を描いている点だ。昨日と同じように見える普通の一日が、時間を積み重ねることで「家族の関係性」を構築し、揺るぎないものとなっていく。膨大な時間をかけて作り上げられるのが家族であり、その一日一日のかけがえのなさに胸を衝かれる。それが家族の普遍的な価値でもあるのだ。 

数十秒という短い時間で、家族の歴史とその到達点を鮮やかに描くことができるのは、CMならではの表現と言えるだろう。

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