伝わらない文章を書く人は主語・述語に問題アリ ベテラン校閲記者が教える「わかりやすい文章」
「きちんと書いたはずなのに、うまく相手に伝わらない」という経験はないだろうか。わかりやすい文章の基本は、主語と述語をきちんと対応させることと、句点「。」をうまく使うこと。
朝日新聞の校閲記者として活躍してきた前田安正氏が、読み手に伝わる文章を書くためのノウハウをまとめた『きっちり! 恥ずかしくない! 文章が書ける』(朝日文庫)。本書を基に前田氏が、誤解されず、正確に伝わる文章の書き方を解説する。
日常にあふれる文章
「ご不便をおかけしますが、健康・感染を守るため……」
出先でこんな貼り紙を見かけた。これでは「感染を守る」ことになってしまう。
Twitterでこういう内容の投稿を見かけました。
<健康は守る。でも感染は、防がなくてはいけない。>
ことばを並列すると、往々にして一つのことばにだけ述語(述部)が掛かる傾向があります。上の例の場合は「健康・感染」と中黒(・)でつないでいるため、ワンワードとして捉えてしまったのかもしれません。そのため、「感染」より「健康」に意識が強く働いた「ことば」として認識され、「守る」という述語をつなげてしまったように思うのです。
「健康・感染」という部分を「健康や感染」という具合に、中黒(・)から「や」という並列の助詞に変えるとどうでしょう。
<健康・感染を守る>
<健康や感染を防ぐ>
中黒(・)の場合と異なり、受ける述語が「守る」から「防ぐ」に変化します。これは、「や」という並列の助詞が入ったため「健康」と「感染」がそれぞれ独立した意味を持ち、「ワンワード」としての意識が薄らぐからです。そのため、後ろに置かれた「感染」ということばを受ける述語を強く引き寄せる傾向が出てくるのです。
「健康」と「感染」のことばを逆にするとどうなるでしょうか。
<感染・健康を守る>
<感染や健康を守る>
それぞれが「守る」という述語を取って、一見すると文が成立しているように思えます。しかし、ことばを入れ替えたとしても「感染」ということばに付く述語がないままなのです。