20代ほど「がん検診の被曝リスク」が高い理由 健康のために「健康を害する」日本人の盲点

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特に「これは不要」と言ってもいいのが20代での胃部X線検査。「胃バリウム検査」と書いたほうが、「ああ、あのきつい検査」とピンとくるのではないでしょうか。

自治体の検診では胃がんの検査対象者は50歳以上、検査頻度は2年に1回。40代の胃がん患者は明らかに減少しているので、検査も胃がんのリスクが上がりはじめる50歳以上からでよいだろうとの判断からです。ピロリ菌の感染者が大幅に減り、胃がん患者自体もかなり少なくなったので、近い将来は55歳、あるいは60歳からにしても問題はないと言われています。

20、30年前までは20代、30代で手術もできない状態の胃がん患者さんが結構いたのですが、ピロリ菌の感染者が激減したためでしょう、10年ほど前からその年代の胃がんは滅多に見なくなりました。32歳で胃がんで亡くなったフリーアナウンサーの黒木奈々さんや、34歳で胃がんを公表した広島カープの赤松真人外野手(当時)のように、時折、若い方の罹患がメディアで話題になりますが、本当にかなり特殊な例です。

人間ドックで大量の放射線を浴びる必要はない

胃バリウム検査では結構な量のバリウムをグビッグビッと飲んで胃のなかに広げて胃の様子を観察するため、検査の間はずっと放射線を浴びることになります。位置的に卵巣に放射線が当たる可能性も考えられます。

胃がんのリスクもないのに大量の放射線を浴びる必要などありません。自治体や多くの職場のがん検診では20代は胃バリウム検査の対象外となっているので回避できますが、人間ドックなどは要注意。オプションなどでうっかり選ぶことがないようにしてください。

現在は医療用の放射線はかなり低めに設定されていますが、昔はかなりきつい放射線を検査で使っていました。

半世紀以上も前のドイツで結核患者の肺を毎週毎週X線で撮影をしていたところ、乳がんを発症する方が増えたということです。また、若いときに背骨の検査で頻繁にX線検査を受けていた人が後に乳がんを発症したという報告もあります。

今と比べものにならないほどの量の放射線を撮影に使っていた時代なので、この例から「X線検査を受けたらがんになる!」と受け取るのは早計。

この例が示しているのは放射線とがんの関係であって、教訓を得るとしたら「放射線は浴びないに越したことはない」という、ごく当たり前の結論です。

イギリスなどは本当に「ここぞというときしかX線検査はしません」というスタンスで回数を制限する発想ですが、国際的には「医療被曝は仕方ない。被曝の度合いを把握していこう」という流れになっています。

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