「リキャップCB」急増、株価への効果は? 名門上場企業が新たな財務手法を繰り出す

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が、発行企業の既存株主に必ずしもウエルカムでないという点には、注意が必要だろう。目先は自社株買いがされるとはいえ、将来、CBが転換されると株数が増えるという、希薄化の懸念が残る。リキャップCB発行企業の多くは転換制限条項を設けており、一定期間、株価がある水準を上回っていないと、株には転換できない。といって実際にその水準を上回ると、株数増加で需給が悪化し、結果的に株価の上値を重くすることにもなりかねない。

自己資本低下も、調達資金の使途が重要

そもそも、リキャップCB発行によるROEの引き上げ効果は、一時的なものにすぎない。バランスシートの負債・資本の部を調整する効果は持つものの、資産の部の収益性を高めるわけではないからである。リキャップCBは、それだけで企業価値を増やすものではない。

重要なのは、CB発行によって調達した資金が、将来の利益を増やすような施策に充てられるかどうかだ。

常陽銀行などの地方銀行は、リキャップCBをドル建てで発行。取引先の海外進出が増えており、それらへのドル建て融資を拡大させる狙いがある。東レの場合、1000億円の発行額のうち、自社株買いに充てるのは2割だけ。残り800億円は炭素繊維などの設備投資や研究開発に使う。これらの資金が利益増につながれば、企業価値を拡大できる。が、調達のほとんどを自社株買いに充て、利益を増やせなければ、目先の“株価対策”に終わる。

さらにリキャップCBの発行は、自己資本比率を低下させる。大和証券の大橋俊安・チーフクレジットアナリストは、「財務バランスが悪化方向に動くことになり、企業の信用リスクを高めることになる」と注意を喚起する。

発行会社のIR担当者も本音を漏らす。「次に資金調達をする際は、リキャップCBでなく、SB(普通社債)や銀行借り入れにする予定」。これも既存株主から厳しい問い合わせが相次ぎ、説明に多くの時間を要したことや、投資家に買ってもらうために、転換価額の引き下げなど発行条件の調整が必要だったことが影響しているようだ。

経団連会長企業である東レもCBを発行し、一定程度の投資家が日本企業のCBを欲しがる以上、リキャップCBの発行は今後も増えていくと思われる。ただ、それによる自己資本比率の低下が悪影響をもたらさないか、発行後の利益成長戦略をしっかり描けているか、厳しくチェックしていく必要があろう。

「週刊東洋経済」8916日号(4日発売)、「核心リポート02」を転載)

福田 淳 東洋経済 記者

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ふくだ じゅん / Jun Fukuda

『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などを経て編集局記者。

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