ネットの検索結果が「投票」に及ぼす恐ろしい影響 「政治とアルゴリズム」のスキャンダル事件とは

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イギリスの選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカの事件はご存じかもしれない。

フェイスブックのユーザーの個人プロフィール(データ)の一部がケンブリッジ・アナリティカ社によって取得され政治的利用をされていた事件

2012年、ケンブリッジ・アナリティカが設立される1年前のこと、ケンブリッジ大学とスタンフォード大学の研究チームは、心理学の5つの性格特性(開放性、勤勉性、外向性、協調性、神経症的傾向)とフェイスブックの「いいね」の関係を調べた。

まずは、クイズ形式の設問を作り、それをフェイスブックで公開して、人の真の性格とネット上の性格の共通点を調べた。そのクイズをダウンロードした人たちは、同意のうえで2つのデータを提供することになった。それまでにフェイスブックで「いいね」を押した数と、クイズの結果、つまり、真の性格の点数だ。

何に「いいね」をしたかということと性格に関係があるのは、不思議でもなんでもない。翌年、研究グループが論文で発表したとおり、サルバドール・ダリや瞑想、TEDトークが好きな人は、開放性の点数が高かった。一方で、パーティーやダンス、リアリティー番組の派手で明るくて感情的な登場人物が好きな人は、どちらかといえば外向的だった。

「いいね」と性格に関係があることが裏づけられ、研究チームはフェイスブックの「いいね」をもとに、人の性格を予想するアルゴリズムを作った。

2014年に2回目の研究がおこなわれる頃には、研究チームは、ある人のフェイスブックのページから300個の「いいね」を集めて、アルゴリズムにかければ、その人の性格を配偶者より正確に判断できると断言した。

広告に利用した結果

この研究はそもそも、それを広告にどのように利用するかということに端を発していた。そこで、2017年、その研究チームは個々の性格に合わせた広告を表示する実験をおこなった。

フェイスブックを使って、外向的な人には(実際には大勢の人に見られているけれど)「誰にも見られていないかのように踊る」というキャッチコピーで化粧品の広告を表示した。

一方、内向的な人には「美は叫ばない」というキャッチコピーで、鏡の前に立って微笑んでいる少女の映像を表示した。

その結果は、個々の性格を考慮せずに同じ広告を表示させたときに比べて、クリック率が40%、購入率が50%増えた。広告主にしてみれば、かなり魅力的な数字だ。

研究チームは論文を発表して、そのやり方を実践した企業の1つが、2016年にトランプの選挙活動のコンサルティングをおこなっていたケンブリッジ・アナリティカと言われている。

ケンブリッジ・アナリティカがターゲット広告の手法を使っていたのはまず間違いない。とはいえ、そのやり方だけなら、立候補者が地元の無党派層の家を一軒一軒訪ね歩くのと大差ない。欧米の国の大きな政党はみな、大規模な分析をして、有権者にマイクロターゲティングをおこなっている。

だが、イギリスの『チャンネル4・ニュース』が報じた暴露映像が本物なら、ケンブリッジ・アナリティカは個人情報を利用して、感情に訴える政治的メッセージを有権者に向けて発信していたことになる。

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