ネットの検索結果が「投票」に及ぼす恐ろしい影響 「政治とアルゴリズム」のスキャンダル事件とは

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普段何気なく使用する検索エンジンの結果が“ものの見方”にどのくらい影響を及ぼすのでしょうか(写真:Jovan Geber/iStock)
知っているようで知らない「アルゴリズム」。現代では、買い物から医療、犯罪予測、車、政治活動まで、暮らしのあらゆる要素にアルゴリズムが潜んでいる。数学者ハンナ・フライUCL准教授がそんなアルゴリズムの実態を検証し、人とコンピューターの共存の道を問う著書が『アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか』だ。
私たちは機械がどうやって判断しているかもよく考えないまま、むやみにショッピングサイトのおすすめに従ったり、逆にAIに仕事を奪われることを怖れたりしていないだろうか。
アルゴリズムと人間の意外な関係を実例から見直せば、どうやって機械と付き合っていけばいいかが見えてくる。ここでは本書から、政治とアルゴリズムの有名なスキャンダルをご紹介しよう──

検索エンジンが“ものの見方”に及ぼす影響

2015年、ある研究がおこなわれた。

グーグルのような検索エンジンが、人のものの見方に対して及ぼす影響を調べたものだった。

その研究は、インドでの選挙の直前に実施された。心理学者ロバート・エプスタイン率いる研究チームはインド国内の浮動票の有権者2150人を対象に、特別に用意した「カドゥードゥル」なる検索エンジンを使って、候補者について調べさせた。

カドゥードゥルの検索結果は操作されていた。

被験者は知らないうちにいくつかのグループに分けられ、各グループは少しずつ異なる検索結果を見せられた。特定の候補者が有利になる検索結果だ。

あるグループがその検索エンジンを使うと、トップページに表示されるのは1人の候補者に好意的なことが書かれたサイトだけで、ほかの候補者に好意的なサイトを表示させるには、何度もスクロールしなければならなかった。トップページに表示される候補者は、グループごとに違っていた。

被験者は当然、検索結果のトップページのいちばん上に出てきたサイトに、じっくり目を通した。

「死体を隠すのにうってつけの場所は、グーグルの検索結果の2ページ目だ」──そんな有名な冗談があるが、まさにそのとおりだ。被験者はみな、検索結果の下のほうに表示されたサイトにはほとんど目もくれなかった。

それは致し方ないとしても、検索結果の順位が被験者の気持ちに及ぼす影響の大きさには、その研究のリーダーのエプスタインでさえ驚かされた。偏った検索結果をほんの数分間見ただけで、検索結果の1ページ目に表示された候補者に投票する割合が12%増えたのだ。

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