ネットの検索結果が「投票」に及ぼす恐ろしい影響 「政治とアルゴリズム」のスキャンダル事件とは
例えば、神経症的傾向が強いシングルマザーに対して、家にいても襲撃されるかもしれないと不安をあおり、銃の必要性を訴える人たちの言葉に耳を傾けさせた。
それに加えて、ケンブリッジ・アナリティカは広告も作って、それをあたかもニュースのように見せかけたと非難されている。
内部告発者が『ガーディアン』紙に話したところによると、その選挙運動のあいだでとくに有効だった広告は、「クリントン財団の10の不都合な真実」と名付けられた対話形式の映像だった。
さらに、別の内部告発者は、ケンブリッジ・アナリティカによって仕込まれた“記事”の大半は明らかな嘘だったと話した。
それらのアルゴリズムによる広告は効果があったのだろうか? 大半の人は、自分は物事をきちんと考えられるから、そう簡単にはだまされないと思っている。それでいて、自分以外の人──とくに政治的な信念が異なる人たち──は簡単にだまされると思っている。
だが、冒頭のエプスタインの実験でわかるように、検索結果として表示されるサイトの順序を変えるだけで、選挙で誰に投票するか決めていなかった人の気持ちは特定の候補者に傾いた。
そう簡単には心を操られないと思っていても、実際にはそうではないというわけだ。とはいえ、こうした例は事実ではあるが、その影響はごく少ないものでもある。
選挙はわずかな影響が大きな差に
先述のターゲット広告も、内向的な人の性格に合わせた広告を表示させたほうが、商品が売れたが、その差はごくわずかだ。全員に同じ広告を表示した場合、1000人中31人が広告をクリックし、ターゲット広告では1000人中35人だった。論文の冒頭には50%増と書かれているが、それは実際にはクリック率が1000人中11人から16人に増えたということだ。
効果があるのはまちがいない。だが、ターゲット広告のメッセージを、冷静な人々が鵜呑みにすることはない。
それでも、選挙となれば、わずかな影響が大きな差として表れることもある。何十億人もの人がいて、その中の1000分の1が影響を受けただけでも、事態が一変しかねない。
2016年の大統領選挙でトランプはペンシルベニア州では600万票中4万4000票差、ウィスコンシン州では2万2000票差、ミシガン州では1万1000票差で勝利した。1%以下の差が明暗を分けたのだ。
実際、アメリカの大統領選挙で使われたケンブリッジ・アナリティカのターゲット広告にどのぐらいの影響力があったのかはわからない。真実がすべて明らかになったとしても、有権者1人ひとりがどんな理由で誰に投票するかを決めたのかまではわからない。
問題はこれからどうするかだ──。
アルゴリズムの判断を鵜呑みにせずに、真意を精査して、誰が得をするのか明確にし、アルゴリズムの間違いを正し、現状に甘んじないようにする。これこそが、アルゴリズムが社会のために役立つ未来を作るためのカギになる。そういう未来が作れるかどうかは、人間にかかっているのだ。
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