狭い家に引っ越したら「町のアイドル」になった訳 周りに壁を作ってきた私が突然「いい人」に

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具体的に言うと、まずは「拡大わが家」の重要拠点となる近所の古いミニスーパー、豆腐屋、米屋、カフェを物色し、礼儀正しく入店してお店の人とちゃんと目を合わせ「こんにちは」と感じよく挨拶。そして「最近近くに引っ越してきたんです。これからよろしくお願いします」と、精一杯ニッコリ可愛く頭を下げながら、豆腐やコンブなど買う。

そして、その後も定期的に通い、やはり「こんにちは」とニッコリ挨拶して、その都度コメやソバや納豆などちょこちょこ買い物をする。

いうてしまえば、それだけのことである。

それだけのことなんだが、強調しておきたいのは、私、非常に素直に、心から感じよく、そうすることができたのだ。卑屈に感じることもなかったし、不本意なことをやっているという気持ちもまったくなかった。

自分でもびっくりだ。

だってですよ、これまでずっと、サービスとは相手がするもので、値段であれ、笑顔であれ、より多くのものを受け取るのが勝ちでありシアワセとであると信じて疑わなかった。

ところが私が今やっているのは真逆の行為である。自分のほうから相手に笑顔を向け、何なら割高の商品を買って相手に喜んでいただきたいくらいの勢いである。急にめちゃくちゃいい人である。

「皆様の幸せ」を願う幸せ

一体なぜこんなことができたのか?

話は単純で、家が小さくて家の中に何もないから、つまりは「町がわが家」だからできたのだ。

いや最初はね、「生きていくためには町の方々に嫌われてはいけない」という危機感からの止むに止まれぬ行動だった。人間、追い詰められればちゃんと頑張れる。

そして、頑張ったなりのものは案外すぐ帰ってきた。何度か同じ店に通ううちに、どこから引っ越してきたのとか、近所のオススメの八百屋とかコロッケ屋とか、昔の町の様子などを教えていただけるようになった。

例の銭湯での「挨拶作戦」もちゃんと奏功し、私はたちまち常連の仲間入りを果たして相撲の結果や明日の天気予報などを日々教えていただけるようになった。皆様に顔を覚えられ、親しみを示していただけるようになったのだ。

ここまではね、まあ普通かと思う。やればできる。努力は裏切らない。

でもそうこうするうち、次第に私の中で、思いもよらぬ大きな変化が起き始めたのである。

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