1990年代以降の日本で設備投資が減少したのは、なぜだろうか。これに対する説明として一般に信じられているのは、「バブル崩壊後の銀行の貸し渋りによる」という説だ。しかし、これはデータによって裏付けられないことを前回述べた。
投資減少の原因は、投資需要の減少だった。つまり、投資需要が抑え込まれたのではなく、需要そのものが減退したのだ。
そうなった原因は、バブル期の設備拡張によって過剰生産能力が蓄積されたためでもあるが、長期的にみて重要なのは、新興国の工業化によって日本製造業のそれまでの地位が脅かされ、日本企業の製品に対する需要が減少したことである。
新興国として最初に登場したのは、韓国、台湾、香港、シンガポールの「アジアNIES」と呼ばれた国あるいは地域である。「アジア四小竜」と呼ばれたアジアNIESは、80年代に目覚ましい発展を遂げた。
そして、90年代になってからは、中国の工業化が顕著になった。中国では、70年代まで文化大革命の影響で国内の混乱が続いていたが、78年に「改革開放路線」に転換した。最初は沿岸部の特区に外資を導入して工業化に着手し、次第に範囲を広げていった。
アジアNIESは、規模の点で日本経済に大きな影響を与えるほどのものではなかった。しかし、中国の規模はケタ違いだ。
中国が膨大な労働力を用いて安価な製品を生産できるようになったため、製造業に関する国際的な競争条件は一変したのである。それまでは日本企業が支配していた市場で、日本のシェアが浸食され、日本は後退を余儀なくされた。