シュンペーターの暗い予測!?監視資本主義の未来 若き天才が経営する独創的な企業による脅威

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シュンペーターの創造的破壊という面から見た監視資本主義について、デジタル革命の進化と代償の視点から考える(写真:Graphs/PIXTA)
監視資本主義という言葉の生みの親として知られるショシャナ・ズボフ教授による『監視資本主義: 人類の未来を賭けた闘い』の邦訳がこのほど上梓された。700ページに迫る大著でありながら、オバマ元大統領が選ぶ2019年のベストブックに選出され、世界的な話題書となった本書で、ズボフ教授は私たちに何を伝えたかったのか。シュンペーターの創造的破壊という面から見た監視資本主義について、同書から抜粋・編集してお届けしよう。

デジタル革命は「進化」なのか

真の経済改革には時間がかかるが、インターネットの世界とその投資家と株主は昔も今も急いでいる。デジタルによる革命という理想は、たちまち破壊とスピードへの執着に取って代わられ、そのキャンペーンは、「創造的破壊」という旗の下で遂行された。

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創造的破壊とは、進化経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが提唱した用語で、シリコンバレーが婉曲に「許可なきイノベーション」と呼ぶものを正当化するために活用された。だが実のところ、シュンペーターの分析は、現代の破壊のレトリックが示唆するよりはるかに複雑でニュアンスに富んでいた。

シュンペーターは資本主義を「進化的」プロセスと見なしたが、その一方で、資本主義の絶え間ない革新の中で、進化的な意義を持つものは比較的少ない、とも考えた。その数少ない例を彼は「突然変異」と呼んだ。

それらは、資本の蓄積という論理および、その理解と慣行における、永続的で持久力のある質的変化であって、状況へのランダムな反応でもなければ、一時的あるいは日和見的な反応でもなかった。

●突然変異にはニーズとの「調和」が欠かせない

シュンペーターは、この進化のメカニズムは新たな消費者ニーズによって引き起こされ、変異が持続するには、それらのニーズと「調和すること」が欠かせない、と主張する。「資本主義のプロセスは、偶然にではなく、この進化のメカニズムによって、大衆の生活水準を次第に向上させる」と彼は言う。

この突然変異を確実に持続させるには、その新しい目的と慣行を制度化しなければならない。「資本主義のエンジンを起動し、動かし続ける基本的欲求は、新たな消費財、新たな生産や輸送の手段、新たな市場、そして資本主義の企業が作り出す新たな形態の作業組織から生まれる」。

ここでシュンペーターが「破壊する」ではなく、「作り出す」と述べていることに注目しよう。彼が突然変異の例として挙げるのは、「家内制手工業が工場になり、やがてはユナイテッド・ステイツ・スチールのような大企業になるという組織の発展」だ。

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