体操「疑惑の採点」から考える自動採点の可能性 審判のジャッジが絶対という時代は終わり?

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先述の通り、2019年の世界選手権で初めて自動採点システムを取り入れられたが、今のところ自動採点システムの採用は男女の跳馬、あん馬、つり輪のみ。東京オリンピックでは、マーケティング権利で使用が難しく、自動採点システムでの採点は公には出てこないという。

が、すでに採点システムの変更の影響は出始めている。自動採点システム導入後、世界的に減点に対して厳しくなったという見方が多く、ひねりが多いなど、くせがあったりすると減点対象になるケースがあり、点が伸びなくなった選手もいる。理想とする姿勢はAIが見極めるため、そこからずれると減点対象となり、 AIの理想に近い選手とそうではない選手で差が大きくなってしまう。

ヨーロッパでは審判の仕事がなくなることや、伝統的に採点競技は人間がやるべきといった意見が幅を利かせており、導入当初は相当の反対があったという。それでも、今後国際大会で自動採点システムの採用が広がることは間違い無いだろう。

「審判が絶対」の時代はもう終わり?

自動採点システムを採用しているのは体操だけではない。テニスや野球、サッカーでも使われるようになっている。こうした採点方法が発展することによって、「審判が絶対」という時代から「審判も人なので間違いがある」という認識になり、より採点における公平性が重んじられるようになっていると感じる。審判のジャッジだけに委ねられるのではなく、1つのプレーを客観的に、正確にジャッジする、という時代になったのである。

とはいえ、今後フィギュアスケートのように「芸術性」も加味されるスポーツになってくると、AIだけにゆだねるのは味気なく、つまらなくもなるだろう。導入されるとすれば、例えばジャンプやスピンといった技の完成度を判定するもので、体操と同じように人との分業になるのではないだろうか。

自動採点導入によって、選手の練習の仕方や考え方も変わってきた。かつては「あの大会では点数が出たけれど、この大会ではでなかったよね」といったこともあったが、今ではどの大会でも点数が大きくブレることがないため、練習でやってきたことの成果が可視化されると同時に、自分の課題もわかりやすくなってきている。体操では体の曲がり方や姿勢、角度などの判断が難しいとされてきたが、AIを基準にすることによって、より公平な判断がなされるわけだ。

今回は橋本選手が金メダルを獲得したので、大きな問題にならなかったかもしれない。もちろん自動採点は万能ではなく、今後クリアすべき課題もあるが、今後は「公平なジャッジ」をめぐる議論が活発化し、これが自動採点システムのより幅広い採用につながるかもしれない。

中村 伸人 スポーツコミュニティ代表

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なかむら のぶと / Nobuto Nakamura

1974年生まれ、神奈川県出身。学生時代体操競技で全国大会などにも出場。大学院修了後、スポーツ専門学校の教員となり、学生募集をする広報担当として入社当時200人だった学生数を3年間で1200人に増やした経験を持つ。2002年、スポーツコミュニティ株式会社設立。体操教室で全国展開を続ける。

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