体操「疑惑の採点」から考える自動採点の可能性 審判のジャッジが絶対という時代は終わり?

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つまり、朝、昼、夕方の3回のうち、朝の班に入った場合、朝の班に入ると得点が出にくく、夕方に入ると得点しやすいという傾向があったのだ。数日にわたって競技が行われる場合であれば、最終日の終盤が最も高得点が出やすくなる。こうした得点の上振れ・下振れを、自動採点システムなら排除することができる。

体操界が自動採点システムの採用に動く背景にあるのは、体操選手の技術力向上による採点の複雑化と、それを審判が見極める頃が難しくなってきたことがある。

現在体操は、「Dスコア(技の難度)」と、「Eスコア(技の完成度)」によって、得点が決まる。Eスコアは10点満点の減点方式である一方、Dスコアは上限なし。つまり、難しい技の完成度が高いほど点数が高くなる仕組みだ。

10点満点方式では測定しづらくなった

1984年のロサンゼルスオリンピックまで「実施5.0点」「難度3.4点」「構成1.6点」の計10点満点だったが、技のレベルによって難度があり、当時C難度までしかなかった。ところが、徐々に選手の技術レベルが向上するにつれ、C難度で測定できなくなり、C難度以上をウルトラCと呼び、測定できなくなるとD難度、E難度と新たにルール化されるようになった。

D難度が増えてから、1つ0.1加点方式に変わってきた。C難度までは「決断性」「独創性」「熟練性」をそれぞれ0.2ずつ付けて、9.4満点として採点していた。それらがすべて満点になると、10点満点になる採点方式だった。

0.05や0.1の減点がわかるようにはなっていたが、「肘が極端に曲がっている」や「少し曲がっている」など審判の感覚的なものによるところが少なからずあった。採点の中身をさらに細部化し、0.025加点(減点)するといったことも。E難度であれば0.2加点されるなど、D難度を基準に加点点数が上がっていくようになり、結果的に10点を超えるようになってきた。そこで、現在の採点ルールを採用するようになった、というわけだ。

複雑化に伴い1997年以前まで1人の審判で行っていたが、現在は難度を数えたりする人など1人だと追いつけなくなってきたことによって分業が必要となっている。今では100人近くの審判が見る必要があるほか、審判の熟練度も求められるようになり、競技上大きな負担となっている。

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