体操「疑惑の採点」から考える自動採点の可能性 審判のジャッジが絶対という時代は終わり?

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体操個人総合で金メダルを獲得した橋本選手だが、つり輪をめぐっては「疑惑の判定」が浮上している(写真:Chang W. Lee/The New York Times)

東京オリンピックで7月28日、体操男子個人総合競技で、橋本大輝(19)が金メダルを獲得したが、競技中「疑惑の判定」があったと話題になっている。3種目目のつり輪で難易度を示すDスコア「5.6」の構成で演技をしたものの、技が1つ認定されなかったとみられ、「5.3」と判断されたのだ。

日本チームは審判に確認を求める「インクワイアリー(問い合わせ)」を要求したものの、結果は変わらなかった。ロサンゼルスオリンピックの体操金メダリスト森末慎二氏も「謎のジャッジだと思う」と話す。

そんな体操競技で近年注目を浴びているのが、人工知能(AI)を利用した「自動採点システム」である。2019年にドイツで行われた世界選手権で、男子の鞍馬、つり輪、跳馬と女子の跳馬で初めて自動採点システムを取り入れられたが、今回のオリンピックでは使われていない。

審判の目だけに頼るには限界がある

体操競技における自動採点システムは、測定機器とデータベースとで構成されている。測定機器は、1秒間に200万回以上ものレーザーを演技中の選手に照射し、選手の体の動きを立体的かつ精密に測定する。この測定データを、基準となる技の動きを収めたデータベースと照合し、どれほどの差があるかを算出する。その差が点数として表されるため、客観的で正確なジャッジが可能になる、というわけだ。

2017年1月に国際体操連盟(FIG)の会長に就任した渡辺守成氏は筆者による以前の取材で、「体操は採点競技ですから、公平性が担保されてなくてはいけない。でもジャッジ(審判)の目だけに頼るのは、やはり限界がある。だったら進化したテクノロジーを使えばいい。それによって競技の根幹ともいえる公平性を保てるのなら、使うべきでしょう」と言及。実際同氏は就任以来、積極的に自動採点の採用に動いてきた。

実際、従来の審査方法だと、出場選手が多い競技大会では、競技順が得点に影響する可能性があった。たとえ素晴らしい演技であっても、早々に高得点を与えてしまうと、それ以上の演技をした選手には、さらなる高得点をつけなくてはならず、終盤になるにつれて軒並み高得点が並ぶことになってしまう。人が得点をつける場合、こうした心理的作用によって、開始直後は低めの点数が出やすい傾向があった。

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