映画「東京クルド」が伝える入管制度のリアル

監督が語る「身近な難民」を5年間取材した経緯

――入管のどのレベルの人の判断なのかわからないけれど、収容するのか放免するのか、すべてが、さじ加減ということになるんですね。

日向監督:これは余談ですが、(仮放免の更新の面談の際に)働いたときに給料はちゃんともらっているのかと聞かれるそうなんです。就労してはいけないというのとは別に、入管の人たちには、雇用者が給料を払わないのは違法だという認識がある。クルドの人も「なんだかよくわからなくなるんですよね」というんだけど。

――そうした極めて不安定な状況で、部屋を借り、一家で暮らす。母親が食事の支度をしている様子が紹介されています。郷土料理を囲む和やかさが感じられるとともに、部屋を借りるのは大変なんだろうなと想像するんですが。

日向監督:身元保証人を立てていますね。仮放免許可を出す時点で、入管の人は「自分でなんとかしてください」と言うんですが。だいたいの場合、支援団体であるとか弁護士さんがなることが多い。携帯電話を契約するとかいうのもぜんぶそうですね。

クルド人の若者への関心がきっかけ

――オザンがひとり暮らしを始めた部屋にカメラが入っていきます。ワンルームだけど、きれいに片付いていて、壁にはクリムトなどの絵が飾ってある。解体現場での彼しか知らなかったので、へぇーと驚かされました。

日向監督:たぶん、それはオザンの好みもあるんでしょうけど。スーパーで安く売ってあるのを買うんだ、いずれ女の子がやってきたときに安心される部屋にしたいと言っていたんですよね。笑うでしょう。かわいんですよ。

――それを聞くと日本人の年頃の若者と変わらないね。そもそも若者ふたりを映画の主人公にしたというのは、どうしてだったんですか? 迫害から逃れてきた親世代ではなかったというのは。

日向監督:若者にしたのは、「ISと闘いたい」と言う若者への関心から出発したというのがあって。とくにラマザンについては、映画の冒頭に出てくるトルコ人とクルド人とが衝突する騒動があったあと、クルド文化協会の会見の場で、落ち着いて記者たちに衝突の背景を説明している彼(当時高校生)を見かけてから、取材したいと思っていました。それで取材をしていく中で、オザンとラマザンはトルコ時代からの幼なじみだというのもわかってきたんです。

日本での生活を夢見て漢字書き取りの練習をするラマザン。何度も「将来」という文字を書き続ける ©️2021 DOCUMENTARY JAPAN INC.

――ラマザンを追う中で、印象に残ったのが、彼がノートに漢字の書き取りをしているところです。「将来」などの漢字をいくつも書き、ひとつひとつ平仮名のルビも書いていきますよね。事情は異なるものの、子供の頃の記憶がよみがえってきました。

日向監督:ラマザンは、N2(日本語能力試験。5段階あり、N2はビジネスレベルの日本語を習得したクラス)を取ったんです。目指すところは英語の専門学校入学だったんですが、「仮放免」という立場の者への無理解さから断られつづけ、あきらめざるをえなくなり、違う進路を選んでいきます。ただ、あの場面、よく見ると将来の字がサンズイになっているんですよね。それも、ちょっとかわいいなあと思いましたね。

些細なことだが、公園でキャッチボールをする親子を眺め、オザンが話す。小さいころ父親は一度も学校に来なかった。イジメがあって相手を殴ったときにも「俺は信用してほしかったのに親父は……」と口にし、だから自分はグレた、自分はぜったいそうしないと話す。いっぽう、息子との関わり方がわからないと嘆く父親。生まれた国は違えども、わたしたちと何ら変わらない「家族」の日常がある。隣人に興味をもつくらいの心持ちで、劇場で観てほしいドキュメンタリーだ。

(文中一部敬称略)

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