映画「東京クルド」が伝える入管制度のリアル 監督が語る「身近な難民」を5年間取材した経緯
――その後、スーツを着込んだオザンがタレント事務所に面接を受けに行く場面がありますよね。テレビの仕事がしたい、自身の存在を認めてもらいたいという。簡単な演技テストなど面接自体はスームズに終わるものの、オザンが「仮放免」のことを打ちあけたとたん、事務所の人たちが戸惑う。それまで部屋に漂うふわふわとしていた空気が強張るんですね。あの場面がすごく印象に残りました。
日向監督:正確に言うと、彼らは難民認定を受けていないので「難民」ではないんですよね。あそこは外国人がたくさん所属する大手の芸能事務所なんですが、おそらく彼らも「仮放免」については知らなかったのかもしれない。仮放免のルールとしては、働いてはいけないことになっていて、だからオザンに「働けますか?」と聞かれ、彼らも戸惑ったと思うんです。
根本は国の方針にある
難民申請をするものの認められてこなかった彼らの立場は「非正規滞在者」にあたる。母国へ自主的に戻るか強制送還されるまでの間、入管施設に収容される決まりになっている。ただし収容人数を抑えようという意図なのか、入管は「仮放免許可書」を発行することで収容を免除されている状態にある。ただしこの「仮放免」には、就労の禁止、他県への移動制限の条件が付けられている。
ここに不条理ともいえる矛盾がある。働かないで、どうやって生活したらいいのか。映画にも出てくるが、オザンのように解体現場などのキツイ肉体労働につくことが多くなる。入管の職員とのやりとりから、就労禁止がいわれる一方で、許可はできないが半ば黙認されているらしいということを、わたしたちは映画から知ることになる。
日向監督:そうなんです。おかしいんですよ。でも、だから入管行政を糾弾してやろうとか思ってこの映画を作ったというわけではなくて。ぼくは、小さいころに父親の転勤でイギリスに住んでいて、1年間だけ現地の公立の学校に通っていたことがあるんですが、アジア人は2、3人しかいない。
「自分はまわりとは違うんだ」ということを突きつけられたことがあったんですね。それもあって、「ISと闘いたい」と言っている若者たちのアイデンティティに興味をもった。日本語を流暢にしゃべりながら、彼らは日本に居場所がないという。彼らのアイデンティティはどういうふうに揺れ、確立されていくんだろうかと。
――「仮放免」の延長を申請しに行った際の、入管の職員との音声(映像なし)が出てきます。働いてはいけないルールに「だったら、どうしたのいいの?」と問いかける。職員らしき男性の声が「それは自分で考えて」「いやなら出て行って。他所の国に行ってよ」と、やけに軽い口調で突き放すのが耳に残りました。
日向監督:ぼくも、聞いていて、ひどいなと思いました。でも、彼らは1カ月に1回など定期的に、仮放免の更新のたびにそう言われてきて、あれ自体がもう日常なんですよね。「あんなの序の口です。もっと口汚く罵られたり、怒鳴られることもありますから」と言うくらい。そもそも国の方針が彼らを「非正規滞在者=悪」と見ていて、「強制送還」という方法で問題を解消しようとしている以上、現場の人たちも、ほかに言いようがないのかもしれない。毎日、何人に同じことを言っているんだろうと考えたりもします。だからこれは職員個々の問題ではなく、根本は国の方針にあるんですよね。
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