映画「東京クルド」が伝える入管制度のリアル

監督が語る「身近な難民」を5年間取材した経緯

トルコ国籍で少数民族に対する迫害と身の危険を感じて逃れてきた親たち同様、子供たちも「難民申請」を行ってきたが、認められず「非正規滞在者」という立場にある。1~3カ月の間隔で、出入国在留管理庁(旧・入国管理局、以下入管)に出頭し「仮放免許可書」を更新しながら、日本にとどまっている。

オザンとラマザンの「クルド難民」のふたりがボウリングに興ずるシーンから始まる。まるで青春映画のようなシーンも多い ©️2021 DOCUMENTARY JAPAN INC.

そうした不安定な立場のクルド人は現在、東京近郊に1500人ほど生活しているといわれる。身近にいながら、知られていない彼らの存在がカメラを通して身近になってくる。だからといって、ジャーナリステックに迫るというのでもない。カメラを挟んだふたりとの会話から、監督も「教わりながら」取材をしていったこと、その歩みがリアルタイムに感じられるのがこの映画の特色でもある。そんな話を切り出したところ、日向監督は次のように語った。

日向監督:難民問題について知識がないまま観られたとおっしゃいましたが、ぼくも同じようなところから取材をはじめていったんですよね。シリアの紛争をきっかけに欧州で難民危機が起き、国境のところで人間の長い列や、ぎゅうぎゅう詰めのボートで海を越えようとする人たちの映像がいっぱい流れていたでしょう。ニュースを見ながら、この人たちはこれからどういう暮らしをするのだろうかと思ったんです。

日本にも難民といわれる人たちがいるということは知ってはいましたが、会ったことはなかった。それで難民支援のNPOや支援団体の人たちにお話を聞きながら、行きついたのが日本クルド文化協会(埼玉県川口市)だったんです。

ISと闘いたい

――そこにたどり着くまでにどれくらいかかっているんですか。

日向監督:2~3カ月ですかね。ふだんテレビドキュメンタリーを作っているので、人に会って話を聞いて、企画を立て、テレビ局に提案し、番組を制作する。それがぼくの通常の仕事の流れで、だからその中でのことでした。

雑居ビルの中に日本クルド文化協会の部屋はあるんですが、日曜日に料理教室や身近な法律相談をやったりしていて、子供からお年寄りまでクルドの人たちが集まってくるスペースになっていて、そこに出かけていったりしていたんです。 

当時(2015年)、そこにいた10代後半から20代前半の人たちが「シリアやイラクに行ってIS(イスラム国)に対して闘いたい」と言うのを聞いて、平和なこの国に来て、なんでまた戦争に身を投じようと思うのか。正直ショックでした。理由を聞くと、「ここで生きていてもしょうがない」「希望がない」「居場所がない」という言葉がつづく。何が彼らをそこまで追い詰めるんだろうか、知りたいと思ったのが取材するきっかけでした。

――映画の力を感じるのは、取材する側のひとつひとつの「驚き」がスクリーン越しに観客に伝わってくることです。

日向監督:そう言ってもらえると嬉しいです。だけども本当に知りませんでしたから、ぼくも。たとえばオザンと入管に行ったときに、ビルの前で「結婚したばかりの従兄です」と紹介される。その彼が「19のときに俺も入ったよ」という。1年2カ月捕まっていたと話すのを聞いて、「えっ、捕まる?」それはどういうことって思いましたから。もちろん「仮放免」がどういうことかは本を読んで知ってはいたんだけれど。それでも突然「明日から泊まってもらいます」と言われて、自由を奪われるということがすぐには理解できなかったんです。

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