映画「東京クルド」が伝える入管制度のリアル 監督が語る「身近な難民」を5年間取材した経緯

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ただ、そういう中で関係性は築けたというか。映画にも出てきますが、時間を決めて窓越しに出てきてもらえますかという約束をして、望遠で、収容されているビルの窓辺を撮ったんですね。肉眼だとおたがい豆粒くらいにしか認識できていなかったですけど。

嬉しかったのは、そうやってぼくが通い続けたことで、ラマザンが「日向さん、タダモノじゃないよね」って。そこまでしてくれるとは思わなかったと言われたのは嬉しかったことです。ただ、いつも朝イチで行って、午後から仕事をするんですが、朝起きて、今日もまた行くのかと思うとキツかったです。

現場の裁量で決められることが多すぎる

――月明かりの夜。小さな影が映るシーンには、そういう背景があったんですね。映画を観ていて不思議だったのは、入管の人たちが、メメットさんに対してもそうですが、収容者が病状を訴えてもなかなか医者に見せようとしない。救急車を追い返すなど、かなり異様な光景に感じられました。詐病を疑うというか、収容者はウソをつくものだという思いこみがあるということなんでしょうか。

日向監督:そこは確信をもっては言えないですが、おそらくそうじゃないかと想像しますね。つまり彼らはなんで捕まっているかというと、罰則ではない。非正規滞在者が国外退去までの間、収容されている。入管の人たちの認識としては、在留資格のない、「帰ればいいのに、帰らない人たち」。それもあって、ゴネれば簡単に病院に行けるとか、要求が通るという前例をつくってはいけないと考えているんじゃないのかなと思いますね。

入管施設の中から顔を出すメメットさんを撮影したシーンも ©️2021 DOCUMENTARY JAPAN INC.

――対面する機会もあった日向さんの目から見て、個々の入管の職員はどう見えていたのでしょうか。

日向監督:たとえばメメットさんと面会したとき、車椅子を押してもらってやってくるのですが、「この人は、いつもよくしてくれていてねぇ」という話を聞くと、全員がひどい対応をしているとは思わない。

これは別のクルド人の方の取材でしたが、仮放免許可書に記載された行動範囲外の場所に出かける場合は「一時旅行許可」の申請をしないといけない。それでゴールデンウィークに仲間とバーベキューをしたいと申請書に書いて出すと、「こんなのは認められない。娯楽目的でしょう」と審査の職員に突き返されてしまいました。

後日、ぼくが入管に電話して「一時旅行許可には、これはよくて、これはダメという書かれたものはあるんですか」と聞くと、「ない」という。「では、どうやって決めているんですか?」と問えば、「こちらの基準で決めている」という回答でした。

「仮放免」についても、どれだけの期間、収容されないでいるのかも(公開された)明確な基準がない。いま問題になっているのは、そうした入管の裁量で決められることが多すぎる。それが難民申請者の人たちにとっては不安を生み出しているということです。

――「仮放免」という制度、本とか読んで調べるほど、何だかよくわからないですね。

日向監督:そうですね。「仮放免許可書」というのも、具体的に何を許可しているものなのか。弁護士さんにたずねても、よくわからないことが多いと言うんですね。そもそも彼らは「非正規滞在」だから入管の施設に収容しなければならないんだけれども、「いまは収容はしない」というだけで、日本に滞在してもいいという許可が出ているわけではないんですね。「仮放免」というルールの中では、解体現場などで就労することは条件違反だから、働いているとわかれば収容しないといけないことになる。

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