映画「東京クルド」が伝える入管制度のリアル 監督が語る「身近な難民」を5年間取材した経緯

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――そう思いました。ところで、この映画を通して日本で暮らすクルド人の実情がわかるとともに、映画に出ることの彼らのリスクを危惧しました。

日向監督:危惧されることはわかります。リスクについては、両親も含めて何度も話してきています。とくにオザンの場合、解体現場で作業するところを撮っていますから。だからといってすべてのリスクを回避するということよりも、いま彼の人生にとって何が大切かを考え、判断しようとしてきました。

収容施設に何度も通った

『東京クルド』の前に、2017年には『TOKYO KURDS/東京クルド』という20分の短編を製作し、TokyoDocsショートドキュメンタリーで優秀賞を受賞した。同作は海外の映画際でも公開されたが、その都度、監督はリスクについてあらためて話し合い、彼らの意思を確認してきたという。

日向監督:それでも、本人の同意があったから出していいのかということもあるとは思います。とくにオザンは「働けないのに日本にいても仕方ない」と、自暴自棄的にもらす一方で、(芸能事務所の面接を受けるなど)自分をさらしてでも認めてもらいたいという気持ちがある。クルドのために自分に何かやれることはないか、とずっと言ってきている。

だから(映画に映ることでの)考えられる他のリスク要素は排除していくように気をつけてやっているし、正直に言えば、いまも(映画が公開されることで何が起きるかわからない)不安や葛藤はあります。入管だけでなく、対トルコの関係もありますから。名札の名前を消したりしたのも、そういうことがあってです。

日向史有/ひゅうが・ふみあり 1980年生まれ。2006年、ドキュメンタリージャパンに入社。ウクライナで徴兵制度に葛藤する若者たちを追ったドキュメンタリー番組「銃は取るべきか」(2016年)や在日シリア人難民の家族を1年間記録した「となりのシリア人」(2016年)を制作。本作の短編版『TOKYO KURDS/東京クルド』(2017年)で、Tokyo Docsショートドキュメンタリー・ショーケース優秀賞を受賞。テレビ版「TOKYO KURDS/東京クルド」(2018年)は、ギャラクシー賞選奨、ATP賞テレビグランプリ奨励賞を受賞。近作に、「村本大輔はなぜテレビから消えたのか?」(2021年) (筆者撮影)

――撮影に5年を要したというのは、映像を見て納得させられたんですね。リスクについて折に触れ話しているのもそうですが、時間をかけて関係を構築しながら撮ってきたのだろうというのは、ふたりの飾らない表情からそういう印象を受けました。

日向監督:関係を築くということでいうと、メメットさんに対してがそうでした。映画にするまでの間にテレビ版の短編を2本作っていて、最初がオザン編、そのあとにラマザン編を放送しましたが、2本目の放送後にラマザンから、入管に収容されている叔父さんが大変だと。「死にそうだ」というので家族が救急車を呼んだんだけど2回も追い返されている。助けを求める電話がかかってきたんですね。

そのとき、ぼくはまだメメットさんとは面識がなかったんですが、ニュースにもなっていた。30時間後にようやく病院に搬送されたんですが。それでメメットさんの奥さんやラマザンと一緒に面会に行ったんです。車椅子に乗って、弱々しく話もできない状態でした。それからメメットさんが外に出てくるまで4カ月弱、品川の東京入管の収容施設に週3回くらい面会に通っていました。

――なかなか、できないことですよね。

日向監督:それでメメットさんは、夜寝ると死んで起きられないという恐怖があって眠れないという。ふだん温厚だし、頭のいい人なんですが、面会中に突然ぼくを怒鳴るということがあり、それが彼自身ショックで涙する。そういうアップダウンの中で面会をつづけるというのは、ぼくも正直しんどくて。

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